ノーベル文学賞の受賞が決まったカズオ・イシグロさんはほがらかで腰が低かった。 「ほお……。本当ですか。なぜですか」。ソファから身を乗り出したイシグロさんの目は少年のように澄んでいた。私が「日本では東日本大震災後、負の歴史を封印し、ヘイトスピーチを容認するかのような排外的空気が強まっている。どう思うか」と問うた時だ。日本語は話せないが、かなり聞き取れるのだという。 【動画】作家 カズオ・イシグロさんインタビュー 2015年6月、長編小説「忘れられた巨人」(土屋政雄訳)の宣伝のため来日した際にインタビューした。 老夫婦が息子捜しの旅をするラブストーリー。神話的なファンタジー世界だが、人々の記憶を奪っている存在が浮かび上がってくる。イシグロさんは「1990年代のユーゴやルワンダでの内戦と大虐殺のショックが執筆のきっかけ」と説明した。過ちを繰り返さないために、記憶をどう扱えばいいのかがテーマの一つ