奈良時代以前には、カタカナも平仮名もまだ出来ていませんでした。古代の日本人は、漢字の音や訓をいろいろに用いて、日本語を書き記す方法を発明しました。 その用例は『万葉集』にもっとも多彩に見られます。文学を書き記すという意識があるからでしょうか。『古事記』ではヤマは「山・夜麻」だけですが、『万葉集』ではそのほかに、「八万・也末・野麻」と書いたものもあります。 『万葉集』には、「恋」は「古非」「古比」と書いたものもありますが、恋は孤りで悲しむものだからでしょう、わざわざ「孤悲」の字を用いた例がかなりあります。漢字の意味を考慮したものと言うことになります。中国にもこういう使いかたがあります。倭の女王の名を「卑弥呼」としたのには軽蔑の気持ちがありますし、イギリスを「英吉利」と書くのには敬意があります。日本製のものでは、clubを「倶楽部」と書くのも、意味を考慮した当て字と言えます。 そういう複雑な『