1928(昭和3)年に伊藤傳三が大阪市内に伊藤食品工業を設立した。現在の伊藤ハムの前身だ。傳三は食肉加工を目的として起業したが、最初は経験のあった海産物づくりから始めた。経営は順調にいったものの、翌29年の世界恐慌の影響であえなく倒産。捲土重来を期して傳三は32年に神戸で魚肉ソーセージの製造を始め、これがおいしいと評判を呼び、阪急、大丸など大手百貨店に卸すようになった。 ここまでは順調だった。が、しばらくすると工場は返品の山で埋まってしまった。なぜか。店頭に並んだ魚肉ソーセージの表皮(ケーシング)から水分がにじみ出し、それによって細菌が繁殖して悪臭を放っていたからだ。魚肉に限らず畜肉のソーセージでも、生産工程で豚や羊の天然腸にミンチ状の肉を詰めて加熱処理する。この天然腸をケーシングと呼ぶのだが、天然腸には小さな穴があいているため、畜肉より水分の多い魚肉だと時間の経過とともに乾燥すると水分が