*扉絵:コグニティブ・フォートトーク、ビジョンクリエーター生成 *以下の論考は映画『スパイの妻』のネタバレが含まれる。 黒沢清監督作品『スパイの妻』は、主人公の福原聡子が、盧溝橋以後泥沼にはまりゆく日中戦争下の日本で彼女が享受する与えられた幸福について、その幸福を与える夫の福原優作が自ら幸福を壊しに掛かるという認識から、彼は幸福を壊すのではなく狂気を終わらせるのだという認識へと変遷する物語である。 戦時下においても何不自由なく暮らす中で、優作と彼の甥である竹下文雄が満州で関わった「何か」に疑問を持った聡子は、その時点で、今ある幸福を壊しにかかる優作を理解出来ない。文雄に「貴方にはわかりようがない」と難詰された聡子は、言葉で説明されても理解出来ないその「何か」について、優作と草壁弘子の関係を疑うが、優作の不在を見計らい金庫を開けてノートと共に発見したフィルムを通じて、聡子は彼の地で何があった