2013年5月16日 東京新聞 筆洗 〈黒竜江に近い駐屯地に/遅い春が来たころ/毛虱(けじらみ)駆除の指導で慰安所に出向いた〉〈オンドルにアンペラを敷いた部屋は/独房のように飾り気が無く/洗浄の洗面器とバニシングクリームが/辛(つら)い営みを語っていた〉 ▼陸軍の衛生兵として、旧満州の慰安所で薬を配って歩いた経験を基にした河上政治さん(92)の「慰安婦と兵隊」という詩である。十数年前に読み強く心に残った。続きを紹介したい ▼〈いのちを産む聖なるからだに/ひとときの安らぎを求めた天皇の兵隊は/それから間もなく貨物船に詰め込まれ/家畜のように運ばれ/フィリッピンで飢えて死んだ〉 ▼〈水銀軟膏(なんこう)を手渡して去るぼくの背に/娘の唄(うた)う歌が追いかけてきた 〉。女性の出身地は分からない。薬を届けて帰ろうとした河上さんの耳に、彼女が口ずさんでいる歌が飛び込んできたのだろう ▼〈わたしのここ
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