「日本はもう経済成長しないのだから、江戸時代のような定常社会に戻ればいい」というひとがいます。市場原理主義の世の中より、近代以前の社会のほうがずっと人間らしい暮らしができるというのです。 「歴史人口学」という新しい歴史学では、宗門改帳などの資料を使って過去の人口動態を研究しています。ひとびとの移動や人口の増減から見ると、江戸の暮らしはいったいどのようなものだったのでしょうか。 歴史学者は、ここで奇妙な現象を発見しました。江戸時代はほとんどの地域で人口が増えているものの、なぜか関東地方と近畿地方だけ人口が減っているのです。この二地域には、江戸と京・大坂という100万都市があります。なぜ地方で増えた人口が、都市で減っているのでしょうか? それは、当時の都市の暮らしがきわめて劣悪だったからです。 農家では、干拓などによる農地の拡大がないかぎり、長男以外は出稼ぎに出されます。もっとも多かったのが奉
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