小学生だったころ、アルファベットが26文字であることを知って驚愕した。その時の気持ちを今の体を借りて言えば、「なんてコスパがいいのだろう」。目の前にあった未記入の漢字練習帳をうらめしく見つめた。日本語に所属する文字たちは、複雑で、多様だ。しかし、言うまでもなく、私たちはそれらを日常として受け入れている。そんな当たり前で異様な文字が様々な時代や場所で生成し、発展する様子を12編の短編として描いたのが、円城塔氏の最新小説集『文字渦』(新潮社)だ。 円城塔氏は2007年、『Self-Reference ENGINE』(早川書房)でデビュー。2012年には「道化師の蝶」で第146回芥川賞を受賞した。また、英訳された『Self-Reference ENGINE』で2014年にフィリップ ・K・ ディック賞特別賞を受賞するなど、国内外で高い支持を得ている。 最新作『文字渦』では、表題作「文字渦」にて、