建築家のAさんとお会いする。ふとしたことから、音の話になった。5メートルほど裏手に、蒸気機関車が走る鉄道官舎で生まれ育ったことを話したら、Aさんの生家の裏手も駅だったという。夜中に轟音をたてて走る機関車の音は雑音ではなく、むしろ静寂、静謐を感じるくらいで、音の原風景になっている。そうだよねえ、うんうん。 「この間ね」とAさん。土地から探してほしいという施主と会った。条件が「お寺の鐘の音が聞こえる場所」だった。音から家を考えるなんて、素敵な話だ。そうだよねえ、うんうん。 半年もの時間をかけて、大半を自らのデザインで実現した二世帯住宅があった(素人が間取りなど描いてはいけません)。入居後半年で、夜中に帰宅するお孫さんの階段をのぼる音、シャワーを使う音に耐えかねて、老夫婦は新居を出て、アパートに移ってしまった。音は懐かしい原風景ともなるが、大きなバリアともなる。そんな事例を、いくつもみてきた。