『黄昏のために』(北方謙三/文藝春秋) 『三国志』や『大水滸』シリーズ。巨匠・北方謙三といえば、歴史小説、特に、長編のイメージが強い。ハードボイルドなタッチで描かれた男たちの戦いには、幾度となく、沸き立つような興奮を感じさせられてきた。だからこそ北方さんの最新作が、掌編集、しかも、ひとりの画家を描き出す物語というのには、少し意外に感じる人も多いかもしれない。その作品の名は『黄昏のために』(北方謙三/文藝春秋)。昨年、完結した『チンギス紀』を執筆する前後に書き継いできた、「原稿用紙15枚ぴったり」の掌編18篇が収録されている。 主人公は、50代も後半に差し掛かっている中年の画家。彼は自分がほんとうに描きたいものをひたすら探し求めている。商業的には成功しているし、間違いなく、技術はある。たとえば、人形を描けば、まるでその人形が生きているかのような出来栄えになるが、それは画家にとっては本意ではな