国際発信するということ 人間文化研究機構 理事 佐藤 洋一郎 先日東京のある大学で「クジラ問題を考える」と題するシンポジウムが開かれました。「おくじらさま・2つの正義の物語」を制作した佐々木芽生監督も登壇し「正義の向こうの正義」という話をしました(http://okujirasama.com/)。クジラ食とは何かという問題を越えて、ある文化が考える正義に相対するのは「邪悪」ではなくもう一つの正義なのではないかという主張でした。人文系の研究機関における成果の国際発信にもおなじ問題が横たわっているのではないか― そう思われてこの稿を草することにしたのです。 わたしは遺伝学者です。わかいころは研究の成果を英語の論文にするのをごく自然のことと受け止めていました。ただ、わたしの関心はもっぱら≪イネという人が作った植物≫がいつどこにどのように伝わったかにありましたから、常に人の影がついてまわります。