整理しておくと,民族問題へのアプローチとしては,おおまかに次の2つの流れがある。 ・本質主義(Essentialism),原初主義(Primordialism) ・構築主義(Constructionism),手段主義(道具主義,Instrumentalism) 前者は,アイデンティティや民族性というものには歴史的に継承される生得的な固有性,普遍性があるという考えで,後者はアイデンティティが後天的に作られ,操作されるものとみる。 最近の研究では後者の考え方が主流で,この前紹介したアンダーソンの「想像の共同体」も後者に属する。A・D・スミスは,その著書で両者を極端だと批判して「エトニ(ethnie)」概念を提唱したが*1,これは佐原徹哉によって「ネイションに規定された前ネイション意識」と批判されている*2。両者のうちで,後者は民族主義を相対化する役割を果たし得るのに対して,前者は民族主義を補強