私は『道は開ける』に登場するテッド・ベンジャミーノという「死傷者記録係」の下士官のエピソードに強い印象を受けました。私自身は「戦争」などという過酷な状況を経験していませんから、「極限状況」のエピソードにはつい興味をひかれるのです。 そしてそんな「極限状況」の体験談が、自分もよく体験していることのように語られていると、いっそう興味をかき立てられます。「もしかすると自分が気づいていないだけであって、いまの自分の状況もまた「極限状況」の一種かもしれない」というように思えてくるわけです。 だとすれば「いまは比較的安穏とした生活だから、もっと無理もきくだろう」などと考えるのは愚かしいことだということになります。少なくとも精神的には過酷な状況の中で、無理をして取り返しのつかなくなった話は心理学には山のように転がっているのです。 私は取り返しのつかないような大失敗をするのではないかという不安に駆られて、