反ヒューマニズム音楽論 (若尾裕) こんにち、世界に作曲家とよばれる人が何人いるかはわからないが、そのなかで、自分が作りたい音楽だけを作っている人はごく一部だろう。ほとんどの作曲家はなんらかのかたちで注文を受けて音楽を作っている。注文のある仕事をひきうけないとしたら、教職など他の仕事をするか、ジョン・ケージのように清貧に暮らすしかない。 この、注文による作曲も、ときたまのことなら、他の仕事のあいまの息抜きていどにとどまるかもしれないが、放送業界においてのように、大量の音楽を一時期に作りあげることになると、これはかなりたいへんなことだ。このような場では多くの場合、調性と三和音を使ったもの──つまり普通の音楽──が要求されるので、同じような音符を同じように並べなければならない仕事がえんえんと続く。必死に音符やメロディを絞り出す努力のすえ、最後にはもう1音符たりとも頭から出てこなくなったりする。