決定的な体験 もう一度、書こう。 いや、何度でも、繰り返し書こう。 それは、何の変哲もないありふれた日、前触れもなしに、突然やって来る。 ある晴れた夏の日、庭の樹の枝が、ゆっくりと大きく、音もなく揺れている。そして、たくさんの葉が、それぞれ異なったリズムを刻みながら、表になり裏になりして、小さな光の粒子を振りまいている。 また、ある雨の冬の日、窓ガラスを幾筋ものしずくが伝い落ちていく。速度を速めたり、遅らせたり。向こう側の風景を少し歪めて、上から下へ、ときどきは左右に蛇行しながら。 日々繰り返される、ありきたりの光景だ。 おもしろくもない。わざわざ記録する価値もない。 しかし、そんなあたりまえの光景が、ある日あるとき、突然、決定的な体験をもたらす。 何が起こったわけでもない。昨日とどこが違うわけでもない。 それなのに、ある瞬間、ぼくはハッと気がつく、「ああ、世界はこのようなのだ……!」 こ