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ブックマーク / d.hatena.ne.jp/zoot32 (129)

  • 空中キャンプ - あたりまえのこと 2007-09-20

    いぜん、心理学者の岸田秀が書いたエッセイを読んでいて、とてもおもしろいとおもったのは、彼がまだ若かったころ、ある日「世の中にはつまらないがある」という事実を発見した、という文章だった。岸田は、この世の中につまらないがあるなどとはかんがえもしなかったのだという。かわりに岸田はこうかんがえていた。というものが、人手と時間をかけて作られている以上、その中には有意義な内容が込められているに決まっている。出版社がわざわざ印刷をし、書店に並べるからには、もちろんその中身はしっかりと吟味されているはずだし、無内容な、つまらないを、手間をかけて出版するなどということはありえない。どんなでも最後まで真剣に読み通す習慣のあった岸田青年は、かたくなにそう信じていたわけだ。 ところが岸田は、あるタイミングで発見してしまう。この世界には、つまらないというものがあると。読んでもいっこもいいことがない、た

  • あらたなる声明 - 空中キャンプ

    「あのさー、もうすぐ声明だすことになったから」と、彼はいった。世田谷区のせまい1Kアパート。オリジンのバランス弁当をおいしそうべながら、かたわらに置いた2Lペットボトルの烏龍茶を、直で飲んでいる。彼と一緒に暮らしはじめて二年。すっかり日にもなじんでしまった。「俺、日人に生まれたらよかったな。日、ごはんうまいし、女の子かわいいしさ。男は、サウジアラビアの方がイケてるとおもうけど。サウジアラビアって服とかカッコわるいしねー。俺も学生服着たかったよ。そいで学生服デートするの。あはは」。僕は、声明のことが気になっていた。 「ちょっと、声明ってなに」と僕は訊いた。二年前、彼を居候させる条件はふたつあった。ひげを剃ること。そしてテロをやめること。タフな交渉の末に、彼はひげを剃り、テロをやめると約束した。じっさい、今の彼はテロとは無縁の生活を送っていた。ふたりでタイフェスティバルにいってグリー

  • 空中キャンプ - 「シッコ」を見たゼ!

    渋谷にて。初日。マイケル・ムーア新作。よかったです! 今回、ムーアが扱う内容は、米国の医療問題。身近でアクチュアルな題材のため、論旨もクリア、主張のポイントも絞りこまれた、クオリティの高いドキュメンタリーに仕上がっていました。すぐれたユーモアの感覚もたのしめました。ただし未だに、タイトルだけはちょっとどうかとおもっています。どうして邦題をつけないのかしら。シッコって、ねえ。国民皆保険が実施されていない米国。そこには、病気になっても治療すらできない人がたくさんいた。 わたしは27歳のときに帯状疱疹という病気にかかった。わるいことに、発症したのが顔面だった。顔の左半分が3倍くらいにふくれあがって、わたしは病院の待合室でほとんど失神していた。その後、一週間の入院と治療で請求された費用は24万円。クラブ通いで散財ばかりしていたわたしにはとんでもない大金であり、どうやって支払おうかと途方にくれてしま

  • 2007-08-24 - 空中キャンプ

    「普通の人々」はとても有名な映画で、八〇年度*1のアカデミー賞をとっている。わたしは過去の映画作品についてあまり詳しくないのだが、この映画はとても好きで、何度も繰り返し見ている。見るたびに、すごくいい映画だなーとおもう。長男をボート事故で亡くした家族と、事故後の生活を描いた作品。 人はとても些細なこと、ほんの小さな原因であっても、時には立ち直れないほどに傷ついてしまうものだということが、この映画を見るとよくわかる。人をほんとうに深く打ちのめすのは、いっけん取るに足らないようなできごとだ。あるタイミングで人が見せる、ちょっとした表情や仕草、無意識のうちに言ったひとこと。それが、「普通の人々」(Ordinary People)をこれ以上ないほどに痛めつける。たとえば、わたしが過去に、他人に言われて傷ついた言葉、または態度。おもいだしてみれば、それは決して大げさなものではなかったような気がする。

  • 空中キャンプ - 酒だ。めしだ。

    うちの会社には、監査がふたつある。外部監査とはべつに、社から内部監査の人がやってくるのだ。うちは外資系なので、わざわざシンガポールから監査がやってくる。この内部監査でケチがつくと、わりとややこしいことになる。なにしろ内部だから、いっさい遠慮なしに、もうどこまでも見ていくのだ。コピー機の金がかかりすぎだね、これちゃんと複数の業者に入札させてますか? この領収書さー、酔っぱらって終電を逃して、タクシー拾って帰ったときのを経費で落としてるんじゃないの。これにはさすがにぐったりである。 監査(Audit)はどうしても嫌われ役だ。映画「主人公は僕だった」は、税務署の監査役(Auditor)の男についての物語だったが、この広い世の中を見回しても、税務署の監査役ほど嫌われる男はなかなかいない。劇中、街のパン屋へ監査にいった主人公は、なぜか店の客にまで「出ていけ」と罵られ、ものを投げつけられていた。かわ

  • 空中キャンプ - 異能の者、命を削った遊び

    ネット上で公開されているドキュメンタリー映画、「The Great Happiness Space Documentary 2006」を見まして、わりとおもしろかったのでちょっと感想を書きたいです。約75分。大阪ホストクラブで働く青年たちと、客として店を訪れる女性を追ったドキュメンタリー。 作品を見ながら、ホストというのは、異能、異形の集団なのだなあとつくづくおもう。彼らの異能とは、「他人の心を意のままに操る」ことである。おそらく、ホストを目指す青年たちの欲望は、他人の心を自由にできるという全能感を終着地点としている。それはきっと、とてつもない快感だろう。登場するホスト青年たちは、「客に、僕を好きにさせるんですよ。それが不器用な人もいるけれど僕にはかんたん」と、平然とした表情でいう。ホストが嫌われる理由もきっとここにある。利己的な理由から、人の心をあっさりと操作することのできる者は警戒さ

  • 空中キャンプ ■「『人間嫌い』のルール」/中島義道

    中島義道という人のはふしぎである。読むとイヤな気持ちになる。でも、どこか説明のつかないおもしろさもあって、つい読んでしまう。それは「真実を抉るのはえてして不快である」ということの証左なのかも知れないけれど、やっぱり読後感はわるいのね。彼の「ひとを愛することができない」(角川文庫)というは、今年読んだ中でいちばん後味のわるいものだったのだけれど、このについてなにかを書こうとおもったら、それだけでがやってきて止めた。ちょうになったの。中島は偽善やタテマエを嫌うし、ある種の共感を強制されることをどこまでも拒否する。それが徹底しているので(葬式で泣く人を見ると不快だ、とまでいう)、こんなこと書いちゃっていいのかしら、すごいなあ、とおもいながらわたしは彼のを読むことになる。「人間嫌いのルール」(PHP新書)も、かなり身も蓋もない内容でしたが、なるほどとおもいつつ読みました。 中島の人間嫌

    空中キャンプ ■「『人間嫌い』のルール」/中島義道
  • 2007-06-10 - 空中キャンプ

    歌舞伎町にて。これ、おもしろかった。よかったです。わたしはすごくすきですね。不必要なせりふを削ぎおとしていくシャープな構成とか、実にカッコいい。劇中で扱っているテーマもいいなあ。なんか胸がしめつけられるようで。ぐっとくる映画でした。 この作品からわたしは、松人志がいぜん作ったコント、「荒城の月」を連想した。汲み取り式便所で用を足している子どもを、便器の穴から地下世界に誘拐し、子どもたちを家来に、地下で王国を築こうとする夫婦の話だ。夫婦は、肥溜めに架空の王国を建設しようと苦心する。しかし彼らは、自分たちがすでに敗北していることを、どこかで承知していていて、それでもなお、「肥溜めの王国」というフィクションにしがみつこうとする。「上こそ下界、上こそ肥溜め!」と、スローガンを復唱する夫婦。このコントがおかしいのは、誰よりもまず、夫婦自身が、このスローガンを信じていないことだ。夫婦はむしろ、それが

  • 空中キャンプ:時間切れ

    世間的にいって、三十五歳というのは、転職可能な年齢のぎりぎり上限である。求職情報などを見ると、たいていの求人には応募可能な年齢があって、職種や企業の規模にもよるのだが、「三十五歳まで」というのがおおかたの上限である。それ以上の年齢の求職者を雇用する会社というのは、雇用条件だったり、雇用形態だったり、給与やなんかで、いろいろとあれな感じになってくる。日給が、バナナひと房とかね。いやですな、歳を取るっていうのは。わたしも過去に何度かの転職を経験したが、さすがにこれ以上の転職はできない。もう時間切れになってしまった。ここで辞めても、わたしを雇ってくれる会社をあらたに見つけることは困難だろう。バナナはすきだが、それ以外のものだってべたい。パイナップルやいちご、すいかやりんごがべたいです。もう転職はきつい。わたしは、今の仕事が理想であるとか、この会社と運命を共にするなどとかんがえたことはないです