安保法案が成立した。これほど瑕疵の多い法案を私は過去に見たことがない。 憲法学者も元最高裁判事も元内閣法制局長官もその違憲性を指摘した。歴代内閣が踏襲してきた憲法解釈は「安全保障環境の変化」という一語によって覆された。立法事実は次々と変遷し、どのような危機的事態に対応するための法律なのかはついに明らかにならなかった。廃案を求める多くの国民の声に政府はまったく耳を貸さなかった。そのようにして戦後日本を律してきた安全保障政策の決定的な転換が行われ、日本は「戦争ができる国」になった。 これほど否定的条件が整いながら、あえて安倍内閣が法案の早期成立にこだわった合理的な理由は一つしかない。それは四月の米議会での演説の中で、首相が「この夏までに、成就させます」と誓言したからである。 彼は「米国に対してなした誓約の履行義務はあらゆるものに優先する」と信じている。それが国内法に違反しようと、法的安定性を揺