猫が大好きなマタタビ。その匂いを嗅いだ猫は体をこすりつけるような特異な反応を示すが、マタタビには猫を陶酔させるだけではなく、蚊を遠ざける効果もあった――。岩手大などの研究グループがこんな研究成果を発表した。新たな虫よけ剤の開発に活用できる可能性があるという。猫がマタタビに示す反応の理由は判明しておらず、研究者は「長年の謎に対する重要な解答」としている。 岩手大の宮崎雅雄教授と名古屋大の西川俊夫教授らの共同研究グループが米科学誌「サイエンスアドバンシズ」に発表した。マタタビにはネペタラクトールという物質が含まれ、マタタビを嗅いだ猫に体をこすりつけたり転がったりする行動を起こさせるという。研究グループは、この物質に蚊を遠ざける効果があることを解明した。蚊は寄生虫などを媒介するが、ネペタラクトールを体に塗った猫に止まる蚊の数は、塗らない猫の半分程度だ…
日本人の死因として、がんに次いで2番目に多い心疾患。このうち、急性心筋梗塞(こうそく)で死亡する人は年間3万人を超える。60代以上の男性が多く発症することから「男性の病気」というイメージが強いが、さまざまな統計データをひもとくと、女性の死亡率は男性のほぼ2倍であることが判明した。性別による大きな差は何が原因なのか。医療の現場から探った。 社会のさまざまな場面にある性差を、データを基に検証するシリーズ「見過ごされてきた性差。女性の急性心筋梗塞 歌手・川中美幸さんの母の場合はこちら。 8月、仙台市青葉区の東北大星陵キャンパス。研究室の大型ディスプレーは、2本の折れ線グラフを表示していた。ピンク色は女性、青色が男性。ピンクの折れ線は常に青より高い位置にあった。 グラフは、急性心筋梗塞のため宮城県内の病院に入院した患者の死亡率で、30年間の推移を男女別に示していた。この間、研究と治療に当たってきた
東京大空襲から70年を迎え、「都内戦災並びに関東大震災遭難者春季慰霊大法要」で焼香に向かう安倍晋三首相(当時、中央)=東京都墨田区の東京都慰霊堂で2015年3月10日(代表撮影) 安倍晋三元首相が銃撃され亡くなってから1年が過ぎた。私が間近で肉声を聞いたのは2015年3月10日、東京都慰霊堂(墨田区)で開かれた「春季慰霊大法要」であった。70年前の同日、東京大空襲の犠牲者らを追悼するものだ。 現役首相として初めて参列した安倍氏は追悼の辞で述べた。「戦災によって命を落とされた方々の尊い犠牲の上に、今、われわれが享受する平和と繁栄があります。(中略)度重なる国難を乗り越えてきた先人たちにならい、私たちも明日を生きる世代のために手をたずさえ前を向いて歩むことを誓います」。この「尊い犠牲の上に……」の文言は、「3・10」に限らず戦争被害者の追悼式でしばしば耳にする。聴く者に「その通りだ」と思わせる
精神科医の蟻塚亮二さん。今は沖縄から東日本大震災の被災地・福島に移って地域医療を続けている=福島県相馬市で2023年1月24日、和田大典撮影 戦争体験は長い期間、時に生涯に及ぶほど、人々の心に傷を残す。精神科医の蟻塚亮二さん(76)がその事実に気付いたのは、高度成長期もバブル崩壊も過ぎた今世紀に入ってからだ。 高齢者苦しめる戦争トラウマ 蟻塚さんは2004年、青森県から沖縄県の病院に勤務先を移った。沖縄は太平洋戦争末期、激しい地上戦に住民が戦闘に巻き込まれ、県民の4人に1人が犠牲になった歴史を持つ。 10年に入り、高齢になってから不眠になったという患者を立て続けに診察した。うつ病とも違う。丁寧に話を聞いていくと、いずれも子どもの頃に戦場を逃げ回ったり、家族が苦しみながら亡くなる姿を見たりした過酷な体験をしていた。それが心的外傷(トラウマ)となり、さまざまな心身の不調と結びついていた。 戦争
短編集「青木きららのちょっとした冒険」で8人のきららの物語を描いた作家、藤野可織さん=京都市で2023年4月14日午後2時42分、清水有香撮影 性暴力に夫婦同姓、ルッキズム、母の役割……。女性に対するさまざまな抑圧が、物語のそこかしこに潜む。といっても、問題を糾弾するためにあえて取り上げたわけじゃない。「登場人物を女性というカテゴリーに入れる以上、書かざるをえなかった」と作家の藤野可織さん(43)は言う。その筆が最新短編集『青木きららのちょっとした冒険』(講談社)で描き出したのは、「まあまあ最悪」な世界だった。 九つの短編から成る物語には、8人の「青木きらら」が登場する。名前こそ同じだが、見た目も年齢もバラバラ。異なる人生を送るきららの物語だ。「一人の女性の話なんだけど、同時にいろんな女性でもある話を書きたいとずっと考えていたんです」と藤野さん。「自分一人の人生に閉じ込められている」のが現
政府は31日、「異次元の少子化対策」のたたき台を公表した。男性育休の取得率向上策や児童手当の支給対象の拡大、高等教育の奨学金の拡充などを盛り込んだ「加速化プラン」を示し、今後3年間で集中的に取り組むとした。また、財源確保を巡り、政府は社会保険料を引き上げる検討に入った。年金・医療・介護・雇用の4保険のうち、公的医療保険の月額保険料に上乗せする案が有力だ。 公的医療保険は会社員や自営業者らで加入する保険が異なり、それぞれに上乗せした上で少子化対策の財源として拠出することを想定している。会社員らの健康保険は保険料が原則労使折半のため、企業の負担も増える。さらに、介護保険料を引き上げ対象とする案もある。政府内では、社会保険料の引き上げでまず数千億~1兆円程度を確保し、歳出改革などもあわせて段階的に予算規模を拡大していく構想が出ている。
一刻も早い客足の回復を願う「ホテル近江屋」社長の近江勇さん=岩手県宮古市で2022年12月23日、釣田祐喜撮影 東日本大震災から12年となる被災地では、今なお企業を取り巻く経営環境は厳しい。被災した人々の暮らしや事業の再建を支え、地域経済にも恩恵をもたらした国の復旧・復興事業が終わり、関連需要の支えが失われたところに、新型コロナウイルス禍や物価上昇の逆風が吹いているからだ。自力で経営体力を培うことが難しい企業が少なくない現状に、識者からは政策支援への依存がもたらした“シンドローム(症候群)”を指摘する声も上がる。【釣田祐喜】 「予約は全然ダメですね」。新型コロナウイルスの感染者数が高止まりしていた2022年12月下旬、岩手県宮古市の「ホテル近江屋」で、社長の近江勇さん(65)はため息をついた。
怒濤(どとう)の反響だった。約10年の任期を終えた英公共放送BBCの東京特派員が書いた「卒業論文」に賛否両論が相次いだ。「日本は未来だった、しかし今では過去にとらわれている」。そんな見出しの記事に、SNS(ネット交流サービス)では意見が飛び交い、数千、数万単位で拡散して、多くの関連発信が生まれた。記事に込めた思いと反応の受け止めを本人に聞いた。【和田浩明】 「前例がない反響」 1月20日の公開から2日間ほどで、閲覧数は300万に達した。世間の大きな関心を集めているニュース記事ではない、週末の読み物だった。BBCの編集者たちは「前例がない反響だ」と驚いたという。 記事の執筆者は、ルーパート・ウィングフィールド・ヘイズさん(55)。2012年10月から東京支局で日本や周辺諸国の状況などを母国イギリスや全世界に伝えてきた。今は上海を拠点とするアジア特派員に任命されている。記事公開から1週間後、滞
生きていることへの実感が持てない、なんとなく不安で満ち足りなさを感じている。そんな子どもや若者のことが気になる。いじめ、不登校、自殺などは過去最悪の水準にあるが、そうしたネガティブな現象は氷山の一角に過ぎなくて、多くの子どもたちがそこに連なる不全感を抱えているように思う。 さまざまな影が重なって子どもたちを覆っているのだろうが、その一つは家庭内の暴力、特に父親からのものである。児童虐待はずっと増え続けており、20万件を超えるに至った。これも表に出たほんのわずかなものであり、はるかに多くの虐待が子どもたちを傷つけている。 「父」というリスクにおびえる子どもたちから目を背けてはならない。 家庭という密室での暴力 どこから見ても恵まれた家庭で育ち、何も不自由のないと思える女子学生の暗い素顔に驚かされることがある。ふだんは仲の良い友だちにも見せようとしない。きっと、その家族と付き合いのある人も本当
インタビューに答える小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師=東京都目黒区で2022年10月16日、幾島健太郎撮影 ウクライナ侵攻に苦戦するロシアのプーチン大統領が、核兵器を使う危険性はどれほど高いのか。ロシアの軍事情勢に詳しい東京大先端科学技術研究センターの小泉悠・専任講師に聞いた。【聞き手・菅野蘭】 新たな動員で形勢が変わるのか ――ロシアが核兵器を使用する可能性は2月の侵攻開始時と比べ変化したと思いますか。 ◆核使用の危険性が高まっているということは明らかだと思います。ロシアが通常戦力で勝てていれば核使用は必要ありません。(プーチン氏が9月に命じた部分的な)動員によって形勢が変わるかもしれませんが、核を持たないウクライナに負けています。核使用の懸念は残り続けると思います。今後、動員本隊を戦場に投入して負けた場合にどうするのか。ロシアにとって、そして私たちにとっても正念場になる
技能実習生として来日する前に日本語を学ぶ人たち=ベトナム南部ホーチミンで2022年9月8日午前11時47分、高木香奈撮影 外国人が日本で技術を学ぶ技能実習制度は、技術移転を通じて途上国の発展を担う人材をつくるという理念の一方、低賃金で働く労働者として農業や建設業などの現場で重宝されてきた側面がある。だが今、最大の送り出し国ベトナムで、日本を回避する動きが生まれている。日本の産業を支える国で何が起きているのか、現場で探った。 水際緩和で期待の一方 「日本の求人に応じる実習生候補者を集めにくくなった」 国内に約500の送り出し機関があるベトナム。9月上旬に首都ハノイと南部ホーチミンで取材した複数の送り出し機関幹部は口をそろえて打ち明けた。 厚生労働省の統計によると、日本で働くベトナム人の数は2020年に中国を抜いて1位になった。44万3998人で、全体の25・7%を占める。急増の主な要因が技能
多くの参列者が集まった安倍晋三元首相の国葬会場=東京都千代田区の日本武道館で2022年9月27日午後1時33分、宮武祐希撮影 安倍晋三元首相の国葬が27日、国民の世論が二分される中で行われた。吉田茂元首相以来、55年ぶりの戦後2例目の国葬。国葬について研究してきた宮間純一・中央大文学部教授(日本近代史)は「国葬の体をなしておらず、政治的にも何も生まなかった。政治家の国葬は現代では成立しないことが実証されたのではないか」と総括する。【山下智恵】 「国葬の体をなしていない」 「日本史上、ここまで批判が噴出する中で行われた国葬はありません。吉田国葬の際も反対意見はありましたが、弔意の要請や各地で黙とうがあり、まだ国葬らしかった。今回、反対世論を考慮し、岸田文雄政権は弔意表明の要請を出せず、国を挙げてという形が取れなかった。国葬の体をなしていないばかりか、結果として国民に分断と緊張状態だけを生みま
毎年、世界経済フォーラムが公表するジェンダーギャップ指数(GGI)の国際ランキングにおける日本の順位の低さが話題になり、多くの慨嘆がさまざまな媒体で表明される。 片面だけを見ている 周知のように、GGIは政治・経済・教育・健康という大きく四つの指標から成り、各指標はさらに複数の項目から算出される。この中で日本の順位を特に引き下げているのは政治の分野であり、国会議員、閣僚、首相などの女性比率が極めて小さいことがその原因である。次いで経済分野でも、女性の労働参加率は高いものの管理職の女性比率が低いためにランクは下がる。 こうした、政治や経済の分野における女性の少なさは確かに問題だ。日本の異常ともいえるジェンダー格差のもとで、女性がもっと社会進出すべきであることは論をまたない。しかし重要なのは、それだけではコインの片面だけを見ているにすぎないということだ。男性を標準として、女性が少ない、女性が劣
日中戦争から数えれば、世界中を巻き込んで日本が起こした戦争は8年に及んだ。 中国で戦争を始めた頃、後に戦火が拡大し、日本に暮らす人々まで惨禍にまみれることになるなど多くの人が思ってもいなかった。日本が軍隊を送った地では既に、大切な家族や日常が奪われていたにもかかわらず。 国民も報道も沸き立つ中、高揚する気持ちを抱えつつ、自らが見た「戦争の風景」を大事にした一人のカメラマンの話をしたい。【春増翔太/東京社会部】 連載「残像・戦争の記憶と記録」は、全5回です。 このほかのラインアップは次の通りです。 第1回 「特攻と桜」は悲劇を映す 第2回 「8・15」のメモをたどれば 第3回 漫画「セレチャン」知ってますか? 第5回 そして従軍日誌だけが残った 入城式取材、望外の名誉 1937(昭和12)年12月16日夕、薄暗くなった中国・南京の街に、同僚と共にはしごを抱え、カメラを手に駆け回る男性がいた。
安倍晋三元首相のひつぎを乗せて増上寺を出る霊きゅう車と、沿道でスマホを掲げたり拍手をしたりする人たち=東京都港区で2022年7月12日午後2時36分、宮間俊樹撮影 政府は22日の閣議で、参院選遊説中に銃撃されて亡くなった安倍晋三元首相の「国葬」を9月27日に東京都千代田区の日本武道館で行うと正式に決定した。名称は「故安倍晋三国葬儀」で、岸田文雄首相が葬儀委員長を務め、経費の全額を国費で支出する。だが法令に基づく明確な開催基準がないことから、野党の一部からは反発も出ている。 首相側近「最初から想定していた」 松野博一官房長官は閣議後の記者会見で、安倍氏が憲政史上最長の約8年8カ月間首相の重責を担った実績や、国内外から幅広い哀悼の意が寄せられていることなどを列挙し、国葬について「無宗教形式で、かつ簡素、厳粛に行う」と強調した。内閣府に「国葬儀事務局」を設置し、関係省庁から集めた約20人体制で準
NHKの番組制作を巡るトラブルを聞かされるのは、これで何度目だろう。2021年夏の東京オリンピック開催に反対する市民のデモが、カネで買われた運動だったかのような誤った字幕付きで放送されたNHKのBS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」。もはやドキュメンタリーとは似て非なる番組と言うしかない。 NHKで優れたドキュメンタリー番組を残し、現在は武蔵大教授を務める永田浩三さん(67)が、言葉を選びながらゆっくり話し出した。 「大阪拠点放送局の制作番組ですが、大阪局では14年にも『出家詐欺』を扱ったドキュメンタリーでやらせ問題があり、NHK全体で匿名の証言者が登場する場合のルールやチェックを厳しくしました。それが機能しなかった。何よりも気になったのは番組の構造です。番組制作に当たった人が、そもそも五輪に反対するデモを怪しげなものとしてとらえていたのではないでしょうか。冷ややかな視線に違和感を覚えまし
あきれている人も多いのではないか。みずほ銀行が昨年から繰り返し起こしているシステム障害は、通算11回となった。失敗を分析して次に生かす「失敗学」を提唱し、政府による東京電力福島第1原発事故の事故調査・検証委員会委員長を務めた畑村洋太郎・東大名誉教授(81)は、繰り返されるみずほのシステム障害について「原発事故との共通点がある」と指摘する。どういうことなのか、詳しく聞いた。 再発防げず信頼失墜 「みずほのトラブルには今の日本が抱える問題点が典型的に表れています」。柔和な表情の畑村さんだが、口調には確信がこもっていた。 みずほでは2021年2月、全国各地のATMが停止し、キャッシュカードや通帳が取り込まれて利用者が足止めされたトラブルを皮切りに、外貨送金の遅れなどが11回も続いた。02年と11年に大規模なシステム障害を起こし、再発防止を進めてきたはずなのに、再びトラブルを繰り返したことで、信頼
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