私が東京放送のアナウンサーになったのは1967年の春だった。 新人の頃、アナウンサーとして読むべき何冊かの本を教えられた。そのひとつが「徳川夢声さんの話し方の本」だった。 正に今回文庫化されたこの『話術』なのだ。先輩から読めと言われていたのに、50年間手にすることがなかった本が手元にやってきた。襟を正して読み始めることにした。 思い返してみると、ただ遊んでばかりいた少年時代に、徳川夢声氏が朗読する「宮本武蔵」に夢中になっていた。 調べてみると、夢声氏のラジオでの「宮本武蔵」の朗読は、戦前から戦中にかけてNHKで放送され一世を風靡していた。戦後、民放でも夢声氏は再び武蔵を朗読して、又しても多くのファンを魅了した。 私も、民放で聴いたひとりだった。 武蔵(タケゾウ)と、幼馴染のお通との、いつまでもはっきりしない関係にヤキモキしながらも、次々にやってくる木刀や真剣での立ち合いに手に汗握ったものだ
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