瀬尾まいこは幸福を見せてくれる作家だと思う ひどいこと恐ろしいこと醜いことがあふれるこの世界で、われわれは幸福を見失っている。日常は倦怠と後悔ばかりに思える。だが瀬尾まいこは、がれきの山から拾い集めるかのように、幸福をひとつひとつ取り出して見せてくれる。固まり具合がちょうどよいオムレツ、一緒に食べようと思って買ってきたケーキ、軽くて心地いい電子ピアノの音、森宮さんが歌う「ひとつの朝」。毎日しゃべっていても気づかなかった「いい声」を歌の中に発見した瞬間は、ささやかだけれど間違いなく幸福なひとときだろう。そして優子は思う。「会うべき人に出会えるのが幸せなのは、夫婦や恋人だけじゃない」。たとえ血のつながらない家族でも、ときにピントがずれていたとしても、互いを気遣い、互いの幸せを祈る関係がある。そして小さな幸福から始まる大きな未来を、瀬尾まいこは垣間見せてくれるのだ。 血縁という絆に価値を感じない