さて。 ひとまず当面の騒ぎは片づいたとはいえ、鬼の出るという橋の上に居続けをするわけにもゆかぬ。 倒れている桜花に縄をかけてかつぎあげると、芙蓉たちは河原の焚き火の周りに引き上げたのだった。 「へぇ、これが鬼なの?」 「たぶんね。あたしたちが見たのとは別だけど、噂に聞いた”きれいな公達”が出るっていうのはこの娘さんだったんじゃないかしら」 無遠慮に桜花をのぞき込みながら、にとりと芙蓉は火に鍋をかけ、すっかり冷めてしまった白湯を温めなおしている。 「ほら、あんた達そんな物珍しそうにするもんじゃない、手当ぐらいしてやるもんだ」 吉野が見かねてそちらに歩み寄ろうとしたとき、ぱちりと桜花が目を開けた。 一瞬なにが起こったのか分からない様子だったが、火の側に寝かされてはいるものの、ぐるぐる巻きに縛り上げられており、そうして腰につけたはずの桜もないのに気づいて、ようやっと殴り倒されたのだと得心が行った