楽の音が響く。妖に負けぬ、艶やかで華やかな――いや、賑やかな音曲(おんぎょく)。三姉妹も各々の楽器を手にする。絡まりあう楽の音。が、融け合いはせぬ。三姉妹の音色は互いに絡まり合い融け合い、そうして芙蓉の奏でる歌から旋律を奪おうとしている。それに気づき、屋根の上で小滝は身構えた。いざとなったら割って入ろうかと思うたが、楽の音のやりとりから既に戦いというわけか。まさかとはじめは耳を疑ったが、確かに音色のやりとりの中で、三姉妹は芙蓉から曲の流れを奪おうとしていた。楽師同士の意地の張り合いとも思えぬ、この姉妹、かならずや西行妖といかほどかの関わりを持つに違いない。芙蓉が見守る鬼龍と吉野に目配せをする。手拍子を。よォし天狗仕込みの威勢のいいところをひとつぶちかますぜと吉野が勢い込んで手を打ち鳴らし、鬼龍も合わせる。が、三姉妹の楽の音は揺らぐ様子もない。ふた節も奏でぬうちに琵琶と手拍子は奏楽からこぼれ