「本日の先発ピッチャーは、ドラゴンズ、川崎」 2004年、中日対広島の開幕戦、試合前のアナウンスにスタンドがどよめいた。その衝撃は瞬(またた)く間に全国へと広がっていった。新監督・落合博満が3年間も登板のない川崎憲次郎を開幕投手に抜てきした。「オレ流」。現役時代からの型破りなイメージを指揮官としても決定づけた。当の落合はそんな周囲の反応をどこか、楽しむかのように、また、真意を胸に秘めるかのようにベンチで含み笑いを浮かべていた。 開幕・川崎の衝撃から遡(さかのぼ)ること数カ月、まだ、吐く息が白い季節に落合は中日ドラゴンズの白井文吾オーナーと契約を交わした。5年間、優勝から遠ざかっていた球団を根本的に建て直すため、グループ総帥は指導者経験のない一匹狼に白羽の矢を立てたのだ。「このチームを変えたい。勝てるチームにしてほしい」 「わかりました」「改革」と「勝利」。契約書にも記されたこのふたつの使命