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岡崎裕美子『発芽』
いっせいに鳩が飛び立つシグナルの青 あの部屋にブラウスを取りに 岡崎... いっせいに鳩が飛び立つシグナルの青 あの部屋にブラウスを取りに 岡崎裕美子『発芽』 ふつうなら岡崎の代表歌としては、歌集の帯にも印刷されている「したあとの朝日はだるい自転車に撤去予告の赤紙は揺れ」を選ぶところだろう。しかし最初は付箋を付けていなかった上の歌を選んだのは、話題になった「したあとの」の大胆な性愛表現よりも、上の歌の方が岡崎の美質がよく現われていると思ったからである。 上句「いっせいに鳩が飛び立つシグナルの青」は、交差点の信号が青になり自動車が発進して鳩が飛び立つ光景だろう。しかし、たくさんの鳥が飛び立つ光景は、ヒッチコックの名作『鳥』を待つまでもなく、危機意識や災厄の前兆としての象徴的価値を持っており、上句はどこか危機を孕んだものとして読める。そして一字空けを挟んで下句「あの部屋にブラウスを取りに」が続くのだが、「遠・親」を表す指示詞「あの」で