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あの日、僕は彼女に別れを告げた。彼女のことを愛していたから
開口一番、医者は僕に病名を告知した。予想通りの病名。驚きはもちろん、悲しみさえわかなかった。むし... 開口一番、医者は僕に病名を告知した。予想通りの病名。驚きはもちろん、悲しみさえわかなかった。むしろ若干自分のことが誇らしくすらあった。ここ数週間医学論文を読み込みたどり着いた結論と一致していたからだ。診断の意味するところは一つだった。僕は、もうすぐ死ぬ。緩やかに、けれども確実に。一つ一つ、できて当たり前のことができなくなりながら他人よりもずいぶん早いペースで死という端点へと近づいていく。「自発呼吸」というピースを最後に残して、パズルからはピースが外れていく。それを防ぐ手立て――治療法――は存在していなかった。 病院から彼女と一緒に暮らすマンションへと向かう帰路で、僕はこれまでの自分の人生を、積み重ねてきた努力を思い返した。教授に詰められながらゼミで論文紹介をしたっけ。巨大なコードベースからなるプログラムの不可解なバグの原因を何週間もかけて追究したっけ。診断が意味していたのは、これまでの自分
2020/09/28 リンク