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「安か油」を購入したのが全ての始まりだった。 1968(昭和43)年春。当時29歳の松本正江(79... 「安か油」を購入したのが全ての始まりだった。 1968(昭和43)年春。当時29歳の松本正江(79)=仮名=は、長崎県五島市内の小集落に、漁師の夫と3人息子の家族5人で暮らしていた。巻き網船に乗る夫は海に出ている期間が長く、正江は子育ての傍ら、1人で畑を耕し、野菜を育てた。近くに住む義父母の食事作りも役目だった。 そのころ、商店を営む親戚から格安で食用油を購入した。「一升瓶10本が入る木箱を3ケース。1本当たり30円安かった」。裕福とは言えない生活。油は日本酒や焼酎の空き瓶に移し替えられていて、どんな会社の油か分からなかったが、安価なのは助かった。 「あんたのとこ安か油のあっとね。分けてくれんかな」。すぐにうわさが広まった。正江は親戚や近所の人に油を配った。 「どうも変な油だった」。加熱するとブクブクと泡が出る。ねっとりして、すり身や天ぷらがカラッと揚がらない。「おかしい」と話題になった。
2018/06/24 リンク