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魯迅 井上紅梅訳 孔乙己
魯鎮(ろちん)の酒場の構えは他所(よそ)と違っていずれも皆、曲尺形(かねじゃくがた)の大櫃台(お... 魯鎮(ろちん)の酒場の構えは他所(よそ)と違っていずれも皆、曲尺形(かねじゃくがた)の大櫃台(おおデスク)を往来へ向けて据え、櫃台(デスク)の内側には絶えず湯を沸かしておき、燗酒がすぐでも間に合うようになっている。仕事をする人達は正午(ひる)の休みや夕方の手終(てじま)いにいちいち四文銭を出しては茶碗酒を一杯買い、櫃台(デスク)に靠(もた)れて熱燗の立飲みをする。――これは二十年前のことで、今では値段が上って一碗十文になった。――もしモウ一文出しても差支えなければ、筍の塩漬や茴香豆(ういきょうまめ)の皿盛を取ることが出来る。もし果して十何文かを足し前すれば、葷(なまぐ)さの方の皿盛りが取れるんだが、こういうお客様は大抵袢天著(はんてんぎ)の方だからなかなかそんな贅沢はしない。中には身装(みなり)のぞろりとした者などあって、店に入るとすぐに隣接した別席に著き、酒を命じ菜を命じ、ちびりちびりと