連載「わだかまり」と「とらわれ」――過去を振り払う（精神科医：春日武彦） 第6回：忘却する技術（2）｜「こころ」のための専門メディア 金子書房

悔しい気持 いわゆる異世界ものと呼ばれる物語（アニメやゲームやラノベ）には、わたしたちがしばしば痛感する「あのとき別な判断をしてさえいれば……」といった類の悔しさが反映されているのかもしれません。「別な判断さえしてい」たらどうだったのか。そのような発想に共感を覚える人が多く、だからたちまち世間に広がり、ひとつのジャンルになった。たしかに運命の分岐点を辿り直してみたくなる気持はよく分かります。 だがそれで心は救われるのか。現実に戻ってみれば余計に惨めにならないか。 もしかすると「別な判断」をしても、結局はめぐり巡って現在と同じ状況になってしまうのかもしれない。いや、もっと残念な状態になってしまっている可能性だってありましょう。そんなことは誰にでも見当がつく。でもやはり悔やんでしまう。 悔しい気持というのには、特有の不快感が伴います。心残り、地団駄を踏みたい気分、今さらどうにもならない腹立たし

[yyamaguchi]

「忘れなくてもいい、無視しなくてもいい。その代わり、とりあえず横にそのまま置いておく、あるいは空想上の箱の中へ放り込んでおく――つまり保留（ペンディング）のまま放置してみてはどうか、という提案です」