ラーメン屋、居酒屋、カラオケ、コンサート。私はどこにだって、ひとりで出かける。そしてどこにいたって、ひとりになれるーー。ニューヨーク在住の文筆家、岡田育さんの寄稿。 このところ、東京に滞在するときは同じビジネスホテルを繰り返し利用している。まだ開業したてで設備が真新しく、接客は必要最小限に簡略化された、現代的で質素な宿だ。 大都会東京、老舗の貫禄が漂う高級ホテルから個性的なデザインホテルまで選択肢は多々あるけれど、安くて雑味がない、食パンかプレーンベーグルを素のままかじるようなこの宿が、噛めば噛むほど、じんわり居心地よい。 「ひとりの時間」と聞いて最初に思い浮かんだのは、このホテルの室内を裸足でぺたぺた歩いている感触だった。ふかふか毛足の長い洋風の絨毯ではなく、撥水性の高いキャンバス地のような床材が敷かれている。編み込まれた繊維素材のかすかな凹凸が肌に吸いつく、さっぱりとしっとりの絶妙な調