日本の大企業および公的組織における (1) 新卒採用 (2) 年功序列 (3) 終身雇用 の 3点を特徴とするいわゆる日本型雇用について考えてみます。 この制度、いろいろ批判があるにも関わらず今のところ大きく揺らいではいません。 その理由を、判例法である解雇規制のせいにする意見があるんですが、ちきりんは、民間大企業の日本的雇用が崩れない理由がそれだとは思っていません。 だって大企業は法律があろうとなかろうと、やりたいことはやるし、やりたくないことはやらないもん。 実際、残業代を払わない(サービス残業)、実質的に有給休暇を取得させない、偽装請負に近いような非正規社員の使い方をするなど、たとえ法律違反でも大企業は平気でやってのけてる。 現実において、彼らが労働法規をそんな厳密に気にしているとは思えません。 大企業は、解雇規制があるからイヤイヤ“日本的雇用”を維持しているのではなく、自分達にとっ
労働市場改革の経済学 ―正社員保護主義の終わり― 八代尚宏 この本は、現代の日本が抱える歪な労働市場とそれを改革するための処方箋をとてもわかりやすく解説しています。 そもそも日本の終身雇用は、高度経済成長期のように所得も人口もどんどん増えている状況では、会社にも労働者にも合理的な仕組みでした。 アメリカの会社などは、3年おきにみんな転職したりします。 その会社の仕事を覚えるのに半年ぐらいは時間がかかるし、次の会社に行くための転職活動にも半年ぐらい時間がかかるので、3年ごとに会社を辞めていては、社員は3分の1の時間を会社のためにならないことに使っているといってもいいでしょう。 その点、終身雇用で社員がずっと同じ会社で働く方が効率がいいともいえます。 また、会社と社員の運命が一蓮托生なら、会社は社員を信用できます。 (こういうべったりの関係は企業の不正を起こしやすいという悪いこともありますけど
2009年11月06日10:59 カテゴリ経済 労働保持より新規採用のインセンティブを 雇用調整助成金(業績の悪化した企業が休職中の労働者に出す休業手当の一部を政府が補助する制度)の支給が、昨年秋に厚労省が方針転換したため激増し、図のように昨年9月には約2000人だった対象者が、1年で約200万人と1000倍になった。厚労省は、民主党政権の方針を受けてこの支給対象をさらに広げる方針だ。 雇用調整助成金の支給対象事業所と対象者数(厚労省調べ) このように社内失業者の労働保持を奨励する政策は、景気が急速に悪化したときの緊急避難としてはやむをえないが、90年代に邦銀の行なったゾンビ企業への「追い貸し」と同じく、人的資源の再配分をさまたげる。今週のEconomist誌も、欧州で行なわれている同様の労働保持や「ワークシェアリング」への補助金が経済の回復を遅らせると批判している。 金融危機の震源地とな
今日は,学会報告も近づき,また明日からのLSでの講義開始に備えて,頭が労働法の解釈モードに切り替わりつつあることを反映して,少し硬い話をしましょう。 現在,民法の債権法部分改正の作業が進められていて,改正試案がすでに示されています(民法(債権法)改正検討委員会編「債権法改正の基本方針」別冊NBL第126号)。まだ試案ですが,これに基づいて民法が改正されると,労働法にも影響が生じる部分が少なくありません。10月18日に行われる第108回日本労働法学会(専修大学)では,この点についても,若干,議論のテーマとする予定です(私は総括コメントを担当します)。 改正試案に基づき改正が行われると,民法の中に,雇用,請負,委任,寄託の上位概念としての「役務提供契約」というものが新設されることになります。そして,雇用に関する規定は,将来的には,労働契約法に統合するものとされ,それまでの間は,民法の規定が補充
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井出草平の研究ノートという社会学者のブログに、「ロストジェネレーションは計量的に支持されない」という記事があった。ここで彼が批判しているのは、現在の雇用問題の原因を単なる不況による「就職氷河期」の問題とみる説だ。大卒の求人倍率だけをみると、90年代には1を割ることもあった大卒求人倍率が、2006年には2を超えている。これだけみると「景気さえよくなれば雇用問題は解決する。構造改革なんてナンセンス」という、今は亡きリフレ派の議論が当たっているようにみえる。ところが、非正社員の比率を年齢別に分析すると、次のようになっている: これを受けて井出氏はこう結論する:若年者の正規雇用率が高まっていくのは、1980年くらいから始まる長期トレンドであるが、景気回復によって、この傾向が変化したことはない。変化したのは、大卒ホワイトカラーという恵まれた立場の人間たちの就職率(正規雇用率)が高まった程度である。
2009年09月18日07:46 日本に眠る総額39兆円の「埋蔵サービス残業代」を発掘するという、夢とロマン溢れるビジネスがはじまりました カテゴリ法務_労働法務 businesslaw Comment(2)Trackback(1) 帰り道、電車広告を見上げていたら、こんな広告が目に飛び込んできました。 『残業代請求.jp』 あなたがやってきた2年分のサービス残業、残業代はいくらになると思いますか?みたいなクイズ形式の広告で、嫌な予感・・・と思ったらやっぱり弁護士の広告だったんですねこれが。 サービス残業手当回収ビジネスはじめました 広告主は、最近メディアでもお顔をよく拝見する法律事務所オーセンスの元榮太一郎弁護士。近著『刑事と民事 こっそり知りたい裁判・法律の超基礎知識』は弊blogでも紹介させていただきました。 確かに、基本給の額と残業実態を証明する資料(すなわち給与明細とタイムカード
労働法にまつわる仕事にかかわっている多くの関係者が待ち望んでいたであろう、本格的な概説書が遂に発刊された。 労働法 作者: 荒木尚志出版社/メーカー: 有斐閣発売日: 2009/08/12メディア: 単行本 クリック: 18回この商品を含むブログ (6件) を見る 自分も、旅先の某大型書店で見つけた瞬間にレジに走った*1。 章立てとしては、 第1部 労働法総論*2 第2部 個別的労働関係法 第1編 労働保護法*3 第2編 労働契約法*4 第3部 集団的労働関係法*5 第4部 労働市場法*6 といったところ。 ベースになっているのは「法学教室」での連載(2006年4月〜2008年3月)、ということであるが、荒木教授ご自身が「はしがき」でコメントされているように、個別労働関係法の章は大幅な再構成や加筆修正がなされているし、元々分厚かった労働契約、労働条件変更法理等のトピックのみならず、他の分野
雇用問題ほど、いろいろな神話が一人歩きしている分野はない。本書はその実態を具体的なデータで反証する。たとえば 一度も転職しないという「終身雇用」はもともと存在しないが、長期雇用は崩壊していない。転職率はここ20年で1〜2%ポイント増えているが、世界でも極端に低く、雇用の流動化は進んでいない。 大学生が「就職後3年で辞める」傾向は、ここ15年ほど変わっていない。離職率は増えているが、その原因は大学進学率が大幅に上がったこと。 「成果主義賃金」をとっている企業はほとんどない。実態は上司の査定による「能力主義賃金」で、これは中高年の賃下げを行なうため。 年功序列は崩れ始めている。年齢給が減って査定部分が増え、50代で昇給はほとんどなくなる。 「派遣を正社員にしろ」というが、実際にやったら正社員として就職できる人は1/20になる。規制強化は、まったく保護されていないアルバイトを増やすだけ
結局、さしたる成果もあげられないまま、このGWの5連休を終えようとしているのであるが、そんな中、唯一読んだ本が↓である。 雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理 (ちくま新書) 作者: 大内伸哉出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2009/04メディア: 新書購入: 6人 クリック: 91回この商品を含むブログ (23件) を見る 大内教授と言えば、近年、労働法研究者としての枠を超えた“やわらかい”著作を数多く世に送り出していることで知られており、何でもかんでも規制緩和の方向に持っていこうとする経済学者的言説とも、その対極に位置する“古典的労働法学者”的言説とも一線を画したバランスの良さには元々定評のある先生である。 そして、本書においても、その才は如何なく発揮されているように思われる。 たとえば、ワーク・ライフ・バランスに関する 「ワーク・ライフ・バランスにせよ、少子化対策
たった1%の賃下げが99%を幸せにする、城繁幸 こんにちは。 藤沢Kazuです。 日本の雇用問題を真摯に綴った一冊です。 分かりやすく日本の労働市場の問題点を浮き彫りにし、構造改革の必要性を説きます。 最近、何かと話題の格差ですけど、規制緩和や市場原理がその原因だと言う意見があります。 しかし、これはまったくのデタラメです。 ボリュームの点からは日本で一番おおきな格差である中高年正社員と若年非正規社員の格差は、実は市場原理が働かないから引き起こされているのです。 そして、それは日本経済の活力を奪い社会問題にもなっています。 日本の労働市場の一番の問題は同一労働同一賃金と言うマーケットメカニズムから見れば極めて当然のことが実現していないことです。 大企業の正社員があまりにもガチガチに法律で保護されているから、経営者はダメな正社員の給料を減らすことも首にすることもできません。 そのシワ寄せが派
いま日本の直面している困難は、その社会構造にかかわる問題といえるでしょう。中国とアメリカは「中間集団」の求心力が弱い点で共通しており、IT産業のような水平分業型への構造変化には中国のほうが対応しやすいと思います。日本は「中国につくれるようなコモディティから卒業してITに重点を移せ」といわれますが、フアウェイと日本メーカーをみてもわかるように、この分野でも中国のほうが強いかもしれない。これは深刻な問題です。 この一因は日本の伝統的な共同体の構造にもありますが、直接には明治以降の近代化や戦時体制によってつくられた集権的な企業システムが原因でしょう。アメリカの経済危機のコアにある問題は金融システムですが、日本の危機のコアにあるのは企業システム、特に労働市場だと思います。昨今の非正規労働者の問題についても、製造業の派遣を禁止するなど倒錯した議論が行なわれていますが、その原因が過剰な解雇規制にあるこ
Economist誌の雇用特集は、各国の失業問題と政策を比較している。各国の雇用政策は、失業率にしばしば悪い影響を与えてきた。1970年代の石油危機以降、欧州諸国は解雇規制を強めて労働市場を硬直化した結果、「構造的」失業が増え、慢性的な失業問題に悩まされるようになった。これに対して、アメリカは労働市場を柔軟にすることによって労働者を救済する政策をとった。その結果、最悪のときは10%を超えた失業率は1982年には5%に減少した。解雇しやすい国は雇用コストが低いため、再雇用もしやすいのだ。 社内失業者を飼い殺しにする「労働保持」を奨励する政策は、短期的には労働者の救済に役立つが、長期的には構造的失業率(自然失業率)を高める。各国政府は70年代の失敗を繰り返すまいと政策を修正している。スペインやスウェーデンでは、社会保険の負担を減らすことによって雇用を維持しようとしている。一部の欧州の国では「
現在、労働組合や野党の一部には、派遣の対象業務を1999年の派遣法改正以前の状況に戻すこと(26業務のみを対象業務として認めるポジティブリスト方式への復帰)を求める声がある。また、民主党、社民党および国民新党の三党は、少なくとも製造派遣の禁止では一致していると聞く。2003年の法改正(04年3月1日施行)によって実現した製造派遣の解禁を「諸悪の根源」であるかのようにいう主張も、マスコミには強い。しかし、その多くは印象論や感情論の域を一歩も出ないものであり、冷静さを著しく欠くものとなっている。 2000年12月12日に当時の森首相に提出された「規制改革についての見解」のなかで、規制改革委員会は、次のように述べた。 「本年の論点公開でも指摘したように、『物の製造』の業務と関わる派遣事業を一括して禁止の対象とすることは、国際的にもあまり例がなく、また『特定の状況の下で、特定の種類の労働者又は特定
また小倉さんからTBが来た。彼は何をいわれても「階級闘争史観」を変える気はないようなので議論は不毛だが、これが世の法律家の平均的な水準かもしれないので、簡単に答えておく。 彼は雇用流動化が「北風」政策だというが、これは理論的も実証的にも間違いである。前にも書いたように、雇用流動化は労働需要を増やす「太陽」政策なのだ。それは経営者に解雇というオプションを与えるので、オプション価値の分だけ労働需要は増える――と書いてもわかってもらえないだろうから、簡単な例を考えよう: ある経営者が、正社員を雇うか派遣にするか迷っているとする。正社員を雇うと絶対に解雇できないとすると、生涯賃金は大卒男子平均で2億7000万円だ。社会保険や年金・退職金を入れると、4億円近い大きな固定費になる。他方、派遣の賃金が正社員と同じだとしても、業績が悪くなったら契約を破棄できる変動費だ。たとえ生産性が低くても派遣を雇う
雇用問題についての取材は、まだまだ続く。きのうは地上波テレビ局から出演の要請があったが、「私の名前はブラックリストに入ってますよ」と答えたら、さすがにNGになった。しかし地上波局まで「正社員の既得権」というアジェンダを意識し始めたことは、大きな前進だ。次の本でもテーマの一つにする予定なので、ジャーナリストのために経済学の基本的な考え方を紹介しておこう。短期の問題だけを考えてはいけない:「解雇規制を緩和したらクビを切られる社員がかわいそうだ」という同情論は、桜チャンネルの司会者からリフレ派まで広く分布しているが、これは短期の問題だけを見ている。長期的な自然失業率への影響を考えると、サマーズも指摘するように、「労働者保護」の強化は必ずしも労働者の利益にならない。 解雇規制を強めることは失業率を高める:ゲーム理論で考えると、解雇規制を強めることは正社員の雇用コストを高め、失業率を高めるのは自明
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