こうの史代『長い道』 「ほのぼの」という粉飾をしながら、出発している地点は実はなかなかにシビアである。 1話がわずか3ページか4ページに夫婦の生活が描かれているのだが、この夫婦は形式だけの夫婦だという設定で始まる。 夫である荘介(そうすけ)は、第一話目から、よその女の匂い、髪の毛、口紅をつけて帰ってくる男だ。女好きであるだけでなく、ギャンブル狂なうえ、無職。カネのためなら女房も質草に入れようとする。 他方で、妻である道(みち)は、二人の父親がたまたま居酒屋で意気投合したから息子と娘を結婚させようというはこびになって、突然荘介のもとへ「送られて」くる。しかも、道には実は思い人がいて、その人に会えるかもしれないと荘介のもとへ身一つで嫁いでくるのである。 いや、最初にのべたように、「ほのぼの」という体裁と、要所要所にさしはさまれるとぼけたギャグが、この苛酷なはずの設定を中和しているのだが、よくよ