『古事記』と『日本書記』は、我が国の神話だが、天皇の万世一系を正当化するものとして国家事業として編纂されたことは間違いない。それにしても『古事記』は712年、『日本書記』は720年の成立であり、比較的に時間差もないのに、なぜに二つもの歴史的神話の書物が著されたのか、全くもって謎である。専門家の間では、いろいろと説があるらしいが、決定打というものはどうもないらしい。 本書は、「記紀」(『古事記』と『日本書記』の別称)の成立を明らかにして、そうした問題に解決を試みたものである。著者によれば、どうも『古事記』と『日本書記』では、「天皇」の定義が違うらしい。『古事記』に出てくる天皇は、「治天下の権」をもった天皇で、政治的実力差を示すが、『日本書記』の天皇の即位は、ほぼ「あまつひつぎしろしめす」となり、継承の部分に重きがおかれており、著者曰く、これは「皇祖の祖霊の継承を意味する」(107頁)のだそう