上方落語に「代書」あるいは「代書屋」と呼ばれる演目がある。昭和10年代、 大阪市東成区今里の自宅で副業として今日の行政書士のルーツである代書人を営んでいた四代目桂米團治が、その実体験に基づいて創作した新作落語で、1939年4月初演された。そのなかに、済州島出身の男が駆け込んできて、大阪に紡績女工として働きに来る予定の故郷の妹のために「渡航証明」を取るのに必要な書類の代書を片言の日本語で依頼する場面がある。杉原達『越境する民』によれば、なんと最後には依頼主のセリフに済州島の方言が音写されているという。 越境する民―近代大阪の朝鮮人史研究 「ハイ、チョド物をタッねますカ、アナダ、トッコンションメンするテすか」 「変ったんが来るな今日は。トッコン、ショメンて何や」 「解らんテすか。ワダシ郷里(くに)に妹さん一人あるテす。その妹さんコント内地きてボーセキてチョコーするです。その時警察(ケサツ)テ判