今度出る『アンチクリストの誕生』には、すでに前川道介氏による既訳のある「月は笑う」が入っています。でもこれは単にいきがかり上そうなっただけで、既訳に不満があるとかそういうことではまったくありません。その点はくれぐれも誤解なきようお願いします。だから「新訳」とかいうのもおこがましくて、あえていえば「別訳」とでも称すべきものであります。これは前にも書きましたが西崎憲さんはボルヘスの既訳にあきたらず、改訳の機会を虎視眈々とうかがっていると聞きましたが、そういうものでは全然ないのです。 といってもピエール・メナールのドン・キホーテみたいなわけにはなかなかいかず、違う人が訳せばやはり違うところが出てきます。とくに短篇のような情報量の少ないテキストでは、文章の意味がすべて一意に定まるというわけにはいきません。そんなときは複数の選択肢のうちからエイヤとひとつ選ぶという決断を迫られます。 「月は笑う」でい
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