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ブックマーク / puhipuhi.hatenablog.com (7)

  • シュレーディンガーの辞書 - プヒプヒ日記

    今度出る『アンチクリストの誕生』には、すでに前川道介氏による既訳のある「月は笑う」が入っています。でもこれは単にいきがかり上そうなっただけで、既訳に不満があるとかそういうことではまったくありません。その点はくれぐれも誤解なきようお願いします。だから「新訳」とかいうのもおこがましくて、あえていえば「別訳」とでも称すべきものであります。これは前にも書きましたが西崎憲さんはボルヘスの既訳にあきたらず、改訳の機会を虎視眈々とうかがっていると聞きましたが、そういうものでは全然ないのです。 といってもピエール・メナールのドン・キホーテみたいなわけにはなかなかいかず、違う人が訳せばやはり違うところが出てきます。とくに短篇のような情報量の少ないテキストでは、文章の意味がすべて一意に定まるというわけにはいきません。そんなときは複数の選択肢のうちからエイヤとひとつ選ぶという決断を迫られます。 「月は笑う」でい

    シュレーディンガーの辞書 - プヒプヒ日記
  • 「ポエティック・クラッシュ」 - プヒプヒ日記

    * 文学界 2010年 09月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2010/08/07メディア: 雑誌 クリック: 4回この商品を含むブログ (3件) を見る* 文学界九月号に「ポエティック・クラッシュ」という巧緻な短篇が載っている。沢渡と漣という二人の詩人によるトークショーの話だ。 沢渡は詩壇の登竜門といわれる新人賞を受賞して以来、エッセイにも活動の場を広げ、女性に人気の高い天然系詩人。対する漣は同じ新人賞をきわどいところで取り逃がしたあと、自らの雑誌を主宰しつつ、やっとトークショーで沢渡の相手がつとめられる程度に這い上がってきた、屈した心情を持つ詩人である。物語は漣の視点から、その内的独白を交えながら進む。トークショーは漣がリードを取り、人気詩人の沢渡を立てつつも、主張すべきところ、自己宣伝をすべきところはきちんとしていく。 * 質問タイムに移ると、一人の中年女性が勢

    「ポエティック・クラッシュ」 - プヒプヒ日記
  • 存在しないものよ、御身が讃えられますように - プヒプヒ日記

    私の書かなかった 作者:ジョージ・スタイナーみすず書房Amazon 『私の書かなかった』という題から、捨てられたアイデアやメモが雑然とまとめられた書物が連想されるかもかもしれない。たとえば星新一の『気まぐれ博物館』のような。 だがそれは間違いだ。『中国の科学と文明』の大碩学ジョゼフ・ニーダムが、『台湾誌』のサルマナザールさながらのぺてん師――まるで種村季弘のから抜け出てきた人物かのように立ち現れる冒頭の一篇『中国趣味について』をちらとでも目にしたら最後、めくるめく博識と卓見に呪縛されたようになって、ページを繰る手が止まらなくなるだろう。 すなわち、それらのテーマが一冊のとして書かれなかった理由が各論考に付されているという一点を除けば、これは一般に試論集(Essays)と呼ばれるジャンルの優れた達成に他ならない。ちょうど『完全な真空』が、対象の実在性にこだわりさえしなければ優れた書評

    存在しないものよ、御身が讃えられますように - プヒプヒ日記
  • 『冠詞』の復刻によせて - プヒプヒ日記

    冠詞 復刻版 第1巻 定冠詞篇 作者:関口 存男三修社Amazonドイツ語の神様」関口存男の天下の奇書『冠詞』が復刻された。彼の著書の中でおそらく唯一読んでいないだ。なにしろ天下の奇書であるからして一冊五万円は決して高くはない。ただ自分に残された時間を考えざるをえない年齢になってしまったわたしは、これから先買うことも読むこともないと思う。 ところで二十年来頭にこびりついて離れない疑問がある。他でもない「関口存男のを読んでドイツ語ができるようになるのか?」というクソナマイキ極まる疑いである。 もちろん外国語の習得には実践が第一であるから、水泳や楽器と同じように、教則ばかり読んでもうまくならないのはあたりまえだ。しかし関口存男の文法書群、特に中上級者向けのはそういうのとは次元の違う問題をはらんでいるのではないか。 つまり、関口文法書群が提示しているものは、ほんとうのところ、ドイツ語

    『冠詞』の復刻によせて - プヒプヒ日記
  • 文豪怪談・三島集を巡って1(言霊の巻) - プヒプヒ日記

    三島由紀夫集 雛の宿―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫) 作者: 三島由紀夫,東雅夫出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/09/10メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (16件) を見る 人の書いた言葉は、その人が死んだ後も残る。運がよければ千年経とうが残っている。だから、ここにもし言霊というものがあって、それが霊の一種であるならば、まさしく霊の領を発揮して人の死後もなお生き延びていることになる。 そこで言霊なるものの実在だが、他の国はいざ知らず、少なくとも邦には、折口信夫ならびに日夏耿之介という豪腕無比のネクロマンサーがいて、いやしくも彼らの著作に親しむほどのものならば、いやもおうもなくその存在を承認せざるを得ないだろう。 * 常識で考えて、お化けや幽霊は、そこに現実の素材として実在するのではない。従ってお化けや幽霊を扱う作家は、現実の素材やまして思想や社会

    文豪怪談・三島集を巡って1(言霊の巻) - プヒプヒ日記
  • 正字地獄(夏コミ本制作記4) - プヒプヒ日記

    何を血迷ったか今回のは正字旧かなで行くことに。こう言ってしまえば簡単だが、実際にやろうとすると、それはそれは恐ろしい茨の道なのである。巷で出ているほとんどのはたとえ旧かなであったも新字であるのを見れば、その恐ろしさの片鱗が理解できようではないか。 案の定、一考氏の教えのごとくほとんどすべての漢字を漢和辞典で引く羽目に。 こんなことで当には出るのか? 作業している人でさえ分からなくなってきた。夏コミに間に合わせるならギリギリの締め切りは今週土曜だ! ああ奇絶怪絶また壮絶! 果たして今日は寝られるのであろうか???

    正字地獄(夏コミ本制作記4) - プヒプヒ日記
  • サムワンをもとめて - プヒプヒ日記

    青年のための読書クラブ 作者: 桜庭一樹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/06メディア: 単行購入: 5人 クリック: 86回この商品を含むブログ (254件) を見る ダンテが地獄・煉獄・天国からなる一大架空伽藍をつくりげたのは、もとはといえば二十四歳で亡くなったベアトリーチェのせいだった。ボルヘスは言う。「ベアトリーチェに死なれ、ベアトリーチェを永久に失ってしまったダンテは、虚構の世界で彼女にめぐり合い、悲しみを和らげようととした」 ここにもうひとり、二十世紀初頭のパリに、最愛の女性をやはり同じくらいの年でなくしたミシェールという青年がいた。そしてやはり彼も壮大な虚構の伽藍をつくることになる。ただダンテのように紙のうえにではなく、東洋の島国という現実のうえで。 しかしこのような動機でつくられたものは、どのような心理的必然によるものかは分からないけれども、何から何かまで夢の

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