これは江戸時代の軍学書である荻生徂徠著『鈐録外書(けんろくがいしょ)』の現代語訳である。 荻生徂徠の兵学は、江戸時代において軍事学を志す者の基礎教養としての地位を占めたが、中でもこの『鈐録外書』は時代に応じて戦争術を発展させる必要性を、広い視野と分厚い知識を元に論じた、進歩的かつ実際的な書で、軍学者のみならず蘭学者からも絶賛を受けている。この書は日本の知識人に進歩的実践的な軍事的教養を叩き込み、後に、日本がスムーズに洋式兵学を受容し軍事的に近代化するための、知的基礎を整えたとさえ言うことができよう。 このような意味で軍事史上の重要文献である本書であるが、また戦国期の軍事の入門書としても、なかなか有益である。荻生徂徠は代々軍事に詳しい家系の生まれで、戦国期の実戦経験者の言葉を、実戦経験者自身から直接、あるいは実戦経験者の親類から間接に聞く機会に恵まれていた。そのため本書には、江戸期の多くの軍