筆者は、伝統的な中国における王朝と人民の関係、官僚制度の在り方について、以下のように述べる(以下、数か所を引用)。 財政のありようから見てとれるのは、中国では歴史的に、政府権力が必ずしも民間社会のすべてを掌握しておらず、必然的に権力のかかわる社会とそうでない社会とに分かれてしまう、ということである。(P.65-66) われわれは普通に「国民」という。それは「国」と「民」が一体化したnationの謂であり、その翻訳語である。欧米や日本の近代国家はそれが基本構造をなしているのに対し、中国は歴史的に「国」と「民」が一体にならなかった。(略)「国民国家」といい、国家と国民が曲がりなりにも一つの共同体をなすのが、日本・欧米だとすれば、少なくとも史上の中国は、両者一体とならない二元的・重層的な社会構成であった。それは、日本や欧米と較べて、権力エリートと一般人民のはるかに遠く、隔たっていたということを意