2022年にノーベル文学賞を受賞したフランスの作家、アニー・エルノーの自伝的フィクション『事件』を基にした映画『あのこと』が、12月2日より日本で順次公開されている。 人工妊娠中絶が法律で禁じられていた1960年代のフランスで、大学生のアンヌは予期せぬ妊娠にうろたえながらも、たった独りで命がけのたたかいに挑んでいく──。観る者にそのたたかいを体感させるリアリティで、本作は2021年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。 日本公開を機に来日した監督オードレイ・ディヴァンと、アンヌを演じたアナマリア・ヴァルトロメイに独占インタビューした。 中絶が沈黙に包まれている本当の理由 ──監督はご自身の堕胎経験を経て『事件』を読まれたとのことですが、フランスでこの短編はどのような位置づけなのでしょうか? 『事件』はアニー・エルノーの著作のなかで出版時、最も注目されなかったものです。フランスではいまは中絶