東京が近代的大都市の相貌を備え始めた時期は、推理小説に登場する探偵の視線の誕生と一致する。江戸川乱歩が推理作家としての活動を開始したのは1920年代初頭であり、とくに関東大震災直後には、東京を舞台にいわば都市それ自体の探偵的調査行為として、今和次郎らによる考現学が生まれている。都市空間と推理小説を結びつけるこのようなパラダイムはすでにヴァルター・ベンヤミンなどによって提起されている。ベンヤミンはさらに、ウジェーヌ・アジェの人けのないパリの街路を撮影した写真を取り上げ、都市空間を犯罪現場と見なし、そこに犯罪の痕跡を読み取ることこそ、写真を「歴史のプロセスの証拠物件」*[1] として活用することだと指摘した。ここにあるものもまた一種の探偵の視線である。もとよりそれは写真が文字通りに犯罪行為の痕跡を記録しているからではない。そのような痕跡が拭い去られたかのように街がアジェの写真のなかで空っぽにな