あだち充(58)の名作「タッチ」は、野球部のエース・和也と双子の兄・達也が、幼なじみの南を巡り繰り広げる恋の駆け引きで始まる。1982年暮れの2か月、「週刊少年サンデー」(小学館)の担当編集者だった三上信一(50)は、発売日ごとにりんりんと鳴り続ける、読者からの電話の応対に必死だった。 連載2年目で人気は沸騰。ところが、作者は三角関係が続けば物語が行き詰まると、人気者の和也を事故死させてしまった。「本当に死んだのかと聞かれて、困りました」。極めつきは死が確定した日の真夜中の一本。「人殺し!」と叫んでガチャンと切れた。 70年代後半から80年代前半、少年誌を席巻したラブコメ(ラブ・コメディー)旋風。すさまじい人気でその中心となったあだちは、70年のデビューも、サンデーの系列誌。だが、時代はマガジンの「巨人の星」「あしたのジョー」など熱血マンガの全盛期。原作(脚本)付きで短い連載をするが、編集