「私は理想を語らないことにしています。」 私も中心メンバーの一人として立ち上げに参画した名古屋大学大学院環境学研究科附属の持続的共発展教育研究センターの設立を記念するシンポジウムで、三重県松阪市長の山中光茂氏がこう発言したとき、会場は怪訝な空気に包まれた。山中市長は33歳で初当選し、大胆な政策で市民が主体的に取り組む地域づくりを主導している。むしろ市民に理想を熱く語ることで、市民を導いてきたのではないのだろうか? 「学者の先生方の提言もあえて無視します」とも。大学と社会の連携をしっかり進めようという主旨のシンポジウムの場で、いささか挑発的な発言である。 市長の真意は以下のようなものだ。何が理想で、どうあるべきか、どうするべきか、外部の専門家に言われるまでもなく、現場の人間は痛いほど分かっている。分かっていて、できない。それにはそれなりの理由があるのだ。その理由をよくよく理解したうえで、それ