近年の日本経済が異常な状態にあることは、経済分析のためのきちんとしたツールと理論をもって分析すれば、誰の眼にも明らかとなります。そのことは、これまでのブログでも書いた通りです。 今日は、貿易(輸出と輸入)に焦点を置き、検討してみたいと思います。 まずは下図を見てください。 1995年から2008年(リーマン・ショックの年)までGDPに対する輸出・輸入の比率はずっと上昇し続けています。特に2002年から2008年の期間に輸出比率が10%から18%近くにまで急上昇したことが注目されます。 しかし、この間に人々は経済が成長したという実感をもったでしょうか? もちろんそうではありません。このグラフには示しませんでしたが、貨幣賃金率も名目賃金率も平均して低下しています。政府の喧伝した史上最長の景気拡大も平均すれば年率1%程度に過ぎません。投資額も低下してきました。投資というのは、技術革新・生産能力の
下図は、日本の大企業(資本金10億円以上、ただし金融・保険を除く)を対象として、その内部資金から実物投資を差し引いた数字をグラフにしたものです。資料の出典は、財務省のホームページに掲載されている「法人企業統計」(時系列統計)です。 このグラフは、日本経済の歴史と現状に関する非常に重要な事実を示しています。 第一に、歴史的にみると、多くの企業は内部資金(企業内留保+減価償却費)を主要な投資資金源としており、不足分を銀行からの融資や株式発行によって調達してきました。1960年頃から1998年頃まで<内部資金マイナス実物投資>がマイナスとなっているのは、企業が内部資金だけでなく、外部資金(銀行融資など)に依存してきたことを示しています。 第二の重要な事実ですが、1986年頃から1991年頃にかけてマイナス額が急激に増加しています。これは、日本の企業がバブル経済の消費ブームに際して設備投資を拡大し
1994年から2011年までの失業率(年平均値)と貨幣賃金率の対前年比をプロットすると、下図のようなグラフが描けます。ここから何が読み取れるでしょうか? 一つは、この間に人々の受け取る賃金所得(貨幣賃金または名目賃金)が低下した年がきわめて多かったという事実です。このことは前にも述べました。賃金が上昇したのは5年だけで、そのうち3年は限りなくゼロに近い数字です。これに対して低下したのは11年であり、そこからゼロ%に近い2年を引いても9年です。 もう一つ読み取れるのは、賃金上昇率と失業率との間にはっきりと負の相関が見られることです。つまり、貨幣賃金率が上がっている年には失業率が低下しており、逆に貨幣賃金率が低下している年には失業率が上昇しています。 これはある意味では当然のことです。景気が悪化すれば賃金も下がり、失業率も上がる(逆は逆)のは常識中の常識です。 ところが、新古典派の理論は、まっ
昨日のエントリーに対して、人事コンサルタントの城繁幸氏から反論が来たのだが、どう間違っていたのか理解できていないようなので、補足説明してみたい。要は城氏が頼る2008年のOECDの指標は古いデータで、それは後日改訂されて無くなっている。また、2013年のデータのグラフで世界で一番難しくはないと否定されているのに、2008年のデータに固執するのは問題であろう。政策的な議論であれば、新しい方を見るべきだ。 1. 城氏が参照するのは廃棄されたデータ ようやく城氏は「2008年度版データ」だとソースを明らかにした。しかし城氏が見ている2008年のデータは、後日改訂されてREG8の値が6から2へ引き下げられている*1。これにより城氏が重視する「解雇の難しさ(Difficulty of dismissal)」は、34カ国中24番目に修正された。しかし城繁幸氏はOECDに廃棄された数字を根拠に、国公一般
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年収1000万円など高額所得者や富裕層の間でも、多忙時には昼食時には利用することも多いファーストフード。その代表格でもあるマクドナルドだが、その同社で、従業員に対して「ファーストフードを食べすぎてはいけない」とのお達しが出ていたことが明らかになった。 これは、社内の従業員向けのサイトで明らかにされたものだが、米CNBCがその画面を入手し、内容を伝えている。その画面には、次のようなメッセージが記されてあったのだ。 「ファーストフードに行った際には、健康的でいることは、不可能なことではない。一般的に、濃い揚げ物などを避けて、野菜などが多いサンドウィッチを頼むと良い。チーズ、ベーコン、マヨネーズなどが必要以上に入っているものについては避けた方が良い。肥満になるリスクが潜んでいる」 決して、行くことを否定するものではなく、また、全面的に食べることを禁止するまでの内容ではなく、脂っこいものの過剰摂取
昨日紹介したGlasnerは、エントリ中でマイケル・ウッドフォードを引用し、複数均衡の可能性を無視している、と批判した。一方、Glasnerを引用したデロングは、ウッドフォードを別の観点から批判している。 彼は、GlasnerのほかMark Thomaの主張――モデルも地図と同様に目的によって使い分ける必要があるという以前紹介した主張を改めてThe Fiscal Timesで行っている――も引きつつ、ウッドフォードをはじめとするニューケインジアンのモデルには、そもそも単なる経済分析とは別の目的があったのだ、と指摘する。その目的とは、10年前にロバート・ソローがスティグリッツの還暦祝いの席で以下のように指摘した現代思想の問題への対処である。 We want macroeconomics to account for the occasional aggregative pathologies
史上最大規模の予算?2014年度予算の政府案が12月24日に閣議決定される。予算の規模は95.9兆円前後となる見込みである。2013年度の当初予算は92.6兆円であり、それに比べ財政規模は3.3兆円増えることになる。このことを踏まえ、新聞報道には「過去最大」「財政規律の弛み」などのコメントが目立つ。こうした報道からは予算が拡張的という印象を抱く方も多いのではないか。 実はそうではない。来年度予算は実質的に超緊縮的である。 2014年度予算と2013年度予算を比較し、規模を考える上では補正予算とあわせて考える必要があるからである。その際、考慮しなくてはならないのは前年度の補正予算である。つまり、2013年度予算は2012年度補正予算と併せて「実質的2013年度予算」を考え、2014年度予算は2013年度補正予算と一緒に「実質的2014年度予算」を計算する必要があるのである。なぜか。2012年
前回、橋本「財政構造改革」が1997年の景気後退を招き、1998年3月期までに不良債権を大幅に拡大したことを説明しました。 もう少し不良債権について検討しましょう。 現在、金融庁のホームページには、2002年以降の不良債権(金融再生法開示債権、リスク管理債権)の詳しい統計が掲載されていますが、それ以前の時期については、ほとんどデータがありません。そこで、1997年3月〜1998年3月の不良債権については、その構成、増加の要因を統計資料にもとづいて示すことはできませんが、不良債権が大幅に増加した2001年3月〜2002年3月以降の時期(小泉「構造改革」期以降)については詳しいデータが掲載されており、非常に参考になりますので見ておきましょう。 一口に不良債権(つまり正常債権以外のパフォーマンスの悪い債権)といっても、その内容は様々です。まず「リスク管理債権」とされているものの中には、破綻先債権
橋本「財政構造改革」とは何だったのか? その全体像はともかくとして、それが消費税の3%から5%への増税、公的医療保険の自己負担率の増額、その他の国民負担率の増額を中心とするものであったことは多くの人の記憶に残っているでしょう。これによって国民負担は<単純計算に従うと>9兆円ほど増えることになりました。これは当時の名目GDPの2%ほどにあたります。 これほどの巨額の負担を増やした場合、それが経済に与える影響はどうなるでしょうか? 橋本首相と大蔵省の計算では、ceteris paribus(その他の条件が不変ならば)、一般会計の赤字は9兆円減ると期待されていました。実に単純な計算です。 しかし、実際にはそうはなりませんでした。一般会計の赤字(単年度)が減るどころか、むしろ大幅に増えたのです。どうしてでしょうか? 経済というのは複雑系の世界です。"ceteris paribus"の前提が成立する
1991年の「複合不況」(平成不況)が日本の「失われた20年」の出発点だったとするならば、1997年頃はそれを決定づけた時期といえます。このことを示すために、前回は日本における一人あたりの雇用者報酬がこの年あたりから低下してきたと述べました。今日はまず、その事実を如実に示す図を掲げましょう。雇用者報酬の統計資料は、政府の「国民経済計算統計」からとっています。 貨幣賃金(名目賃金)は、1997年にピークに達した後、低下しつづけています。また実質賃金(物価調整済み)は1995年〜1996年にピークに達してから徐々に低下してきました。実質賃金のほうの低下が穏やかなのは、1997年頃から始まったデフレーション(物価水準の持続的低下傾向)のためです。つまり貨幣賃金は急速に低下しましたが、物価水準が低下傾向にあるため、実質賃金の低下が穏やかになっているのです。 ただし、言うまでもないことですが、勤労者
昨日からブログを始めました。 昨日は「ブログを始めました」とだけ書きましたが、実は何を書いたらよいのか迷っています。私の仕事は、大学で経済学を学生に教えることですが、経済のことについては、別にサイトを設けて様々な情報を開示していますので、あらためて堅い内容のものを書くのもブログの性格上合わないような感じがします。かといってソフトな内容のことも書けません。 ただ本当は、経済学をやっていると、というより日本経済の分析をしていると、多くの人に知って欲しいと思うことが沢山あります。・・・が、さしあたり人に読んでもらうことを考えずに、一人ごとのような、社会経済戯評のようなことを書き連ねてゆくことにしました。 山家悠紀夫さんの著書に『暮らしに思いを馳せる経済学 景気と暮らしの両立を考える』(新日本出版社、2008年)があります。とても分かりやすく書かれていながら、日本経済や世界経済の実態、日本政府の経
社会と文化の変化は、一個人の生活にも多大なる影響を及ぼす。伝統的な生き方や価値観を維持することが難しくなっていく。それが3つ目のメガ・トレンド「ライフスタイル変革」である。2040年の世界を示すブーズ・アンド・カンパニーの好評連載、第12回。 第9のメガ・トレンド ライフスタイル変革(Lifestyle Transformation) 人口構成の変化、人口移動、情報環境の改善、さまざまな文化の流入、賢くなる個人といった現象は、経済全体だけでなく、個人と家族のライフスタイルにも影響を与える。となりの芝生が青く見えれば、これまでの(伝統的な)生き方や価値観に疑問を持つようになり、外の世界に出て成功した人を見れば、自分もやってみようと人口移動が生じる。移動手段や通信手段が増えれば、それを活用した生活や仕事のスタイルに変わっていく。企業における働き方においても、自宅からオフィスに出勤して固定席で勤
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急激な増加を続けていた運送事業者数。平成元年度に3万9555者だったものが、平成23年度には6万3083者にまで増加している。 しかし、その「伸び」も平成20年度にストップ。もちろん、当時、大問題となったリーマン・ショックの影響は飛び抜けて大きいが、当時、業界への相次ぐ規制強化が実施されている。 平成16年4月に改正下請法の施行。同18年2月、監査機能の強化。同6月に駐車違反取り締まり強化。同8月、行政処分基準の強化。同19年6月、中型運転免許制度の創設。同20年4月、トラック運送会社向けの厚労省との合同監査・監督の実施。同7月、新規許可事業者に対する法令試験の実施。同22年12月、アルコールチェッカー義務化方針を明示。 退出事業者数は372(同7年度)、422(同8年度)、624(同9年度)と推移しているものの、同13年度には893者となり、同14年度には1220者となった。平成16年度
こんにちは、島倉原です。 今回は、失われた20年の原因を巡る諸説のうち、⑥人口減少説、を取り上げたいと思います。 この説については、理論・実証の両面から既に多くの批判が加えられていますが、未だにマスメディアなどで、日本経済停滞の原因の1つとして決まり文句のように言及されることもあるので、その背景なども考察しながら、今一度検証してみたいと思います。 人口減少がデフレの正体? 人口減少説をポピュラーにしたのは、50万部を超えるベストセラーになった(Wikipediaの記述による)、藻谷浩介著「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」(角川oneテーマ21、2010年)でしょう。 当時日本政策投資銀行の参事役(現在は日本総合研究所調査部主席研究員)だった藻谷氏は、「『生産年齢人口減少に伴う就業者数の減少』こそ、『平成不況』とそれに続いた『実感なき景気回復』の正体です。」(同書134ページ)という
こんにちは、島倉原です。 今回は、前回(その3:正しい経済理論とは何か)列挙した、失われた20年の原因を巡る諸説のうち、①生産性低下説、②「ゾンビ企業」生存説、について述べてみたいと思います。 これらはいずれも、いわゆる「主流派経済学(新古典派経済学)」の理論をベースに出てきたものです。 「生産性」で全てを説明しようとする主流派経済学 私が日本経済の長期低迷について本格的に調べ始めた約3年前、経済学者の知人が「そのテーマに関して学界で有名な論文」として紹介してくれたのが、”The 1990s in Japan: A Lost Decade”(日本の1990年代:失われた10年)という論文(以下、「林=プレスコット論文」)でした(オリジナルは2000年に発表され、2002年にReview of Economic Dynamicsに掲載)。 これは、林文夫(当時東京大学教授、現在一橋大学教授)
こんにちは、島倉原です。 今回は、「失われた20年」(デフレを伴う日本経済の長期停滞)の原因を巡る諸説を概観してみようと思います。 経済学は当てにならない? 以下は順不同で、あくまでも「私の知る限り」の諸説一覧です。また、論者によっては複数の説をまたいでいるケースもあります。 (1)生産性低下説 GDPとは「Gross Domestic Product(国内総生産)」を略したものです。 この説は、モノやサービスを生産する際の「生産性」向上がバブル経済崩壊後に弱まったことが、文字通り生産活動の総合計であるGDPの伸びで示される、経済成長率低迷の原因であるとし、解決するには生産力を弱めているもともとの原因を取り除かなければならない、と考えます。 → 詳細)「主流派経済学」のいかがわしさ (2)「ゾンビ企業」生存説 (1)の一類型と言えるかもしれませんが、生産性の低い産業や企業(=ゾンビ産業 o
はじめに 本論文は、ある雑誌に載せていただくために、リーマンショック後の2009年に書いたものを再編集したものです。そのときは雑誌の廃刊のため日の目を見ることはなかったのですが、今読み返してみても基本的な論理は通用すると思われるので、ここに掲載させていただくことにしました。 抑制と拘束の「最大」も「最小」も社会を不安定化させる 新自由主義と呼ばれるイデオロギーが行き着くところまで進んだとき、市場経済は大惨事に見舞われました。 新自由主義の崩壊後において、特に気になるのは保守派にみられる「フリードマンは悪いけどハイエクは悪くない」という意見です。リーマンショック後は『蟹工船』ブームなどが起き、マルクスの亡霊が復活したことへの対抗軸として、ハイエクが見直されていたという点を指摘できます。 確かにマルクス主義は、ハイエクの批判で理論的に論破されています。格差社会という現実における対応という点では
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