『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、電車の中で起きた痛ましい事件と、「幸せそうな女性」について、社会に思うことを書いていただきました。 ※当記事は連載の第5回です。最初から読む方はこちらです。 #5 幸せそうな女性 「幸せそうな女性を殺したかった」という理由で男性が女性を狙って刺した。ニュースを見て、事件の被害者や居合わせた人々に思いを馳せ、胸を痛めると同時に苦しい記憶を蘇らせた女性は多いのではないか。私はそうだ。謎が解けていくような、身体の奥がすっと冷えるような感覚がずっと消えない。 直近だと、子どもが生まれてまもなく、スーパーマーケットで見知らぬ男性にベビーカーを蹴られた。その時の私は産後のマイナートラブルとワンオペ育児でボロボロ、仕事への不安もあり、幸せを感じるとかそんな余裕はまったくなかったのだが