礼節を知り、なお究めたい美食 「ベッドと食卓に礼儀は不要」というのがイタリア人の鉄則。快楽の肯定にかけて他民族の追随を許さぬ彼らは、ひとたび食事を始めて食の快楽に身を委ねれば、手づかみだろうと汁をはね散らかそうと、お構いなし。まるで「食べるために生きている」と言わんばかりの健啖(けんたん)ぶりを見せる。ベッドの中でもまたしかり、かどうかは定かでないけれど、たぶんそうなのだろう。 古来「衣食足りて礼節を知る」と言うけれど、礼節を知ってなお、究めてみたいのが美食ではなかろうか。その昔、皇帝や王侯貴族の特権だった美食も、現在は私たちの手の届くところにあるからなおさらだ。その基礎を形作ったのが、19世紀初頭のフランスに巻き起こったグルメブームだった。火つけ役はブリア=サヴァランの著した『美味礼賛』(原題:『味覚の生理学』)。1826年にパリで初版が出版され、今日まで脈々と読み継がれているこの本に書