土の人、風の人、という言い方で言うなら、Sさんは風の農夫である。 「風の農夫」なので、自分の土地を持たない。 それどころか、地主から土地を借りて耕作することもない。 「風の農夫」は定住しない。 労働力の不足してる本百姓のところへいって、労働力を提供する。 「風の農夫」は、雇いの百姓である。 農村社会では、当然その地位(身分)は低い。 おまけに、地主=「持てるもの」に雇われるのだから、小作人とも敵対関係になる。 よその村から流れてくるのだから、ますます風当たりはきびしい。 普通、貧農の次男、三男以下が、他の家の手伝いになることはよくあるが、よその村まで行って、さらには国から国へと渡り歩く者はそうはいない。 実のところ、「風の農夫」は単なる労働力の提供だけを受け持つのではない。 それだけなら、そう安々とよその村に入り込むことはできないだろう。 なぜなら、その村にだって、貧農の次男、三男以下がい