最近は短歌に関連する本ばかりを紹介していたものの、じつはこれと並行して、わたしはいまかつてない情熱をもってクラシック音楽に関する本を読み漁っている。音楽論、音楽小説、作曲家の伝記など、その内訳はさまざまだが、すべてのきっかけとなったのは、今年8月に文庫化されたこの本を手に取ったことだった。 青柳いづみこ『六本指のゴルトベルク』中公文庫、2012年。 つい先日、安物の(といっても自分にとってはけっして安くはない)電子ピアノを購入したおかげで、日本に留まっていた半年ほどの期間に楽しんでいた音楽の趣味を再開できるようになった。というか、ピアノにまったく触れられずにいた数ヵ月のうちにちょっと信じられないほど高まった音楽への情熱が、わたしに電子ピアノを買うよう仕向けたのである。いったい自分のなかでなにが起きてしまったのか、この突発的な欲求は「呪い」とでも呼んだほうが遥かに正確なほど強く、わたしは来る