ハイデガーの思想 (岩波新書) 作者: 木田元出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1993/02/22メディア: 新書購入: 6人 クリック: 50回この商品を含むブログ (36件) を見る 二千五百年に及ぶ西洋の文化形成の原理を批判的に乗り越え、<生きた自然>の概念を復権することによって文化の新たな方向を切り拓こうとするその意図を、「血と大地」に根ざした精神的共同体の建設というナチズムの文化理念に重ね合わせて考えようとした、あるいはナチズムを領導しておのれの文化理念に近づけうると夢想した、その心理は理解できるように思うのである。 (197) 第7章「ハイデガーとナチズム」より引用。 ハイデガーにとってのギリシア哲学がどのようなものか、簡潔に説明がなされていて勉強になった。ニーチェもハイデガーも(ラヴジョイも)、プラトン・アリストテレス以降の西洋の形而上学を総体的に捉え、その形而上学の本
後期のハイデガーは特に難解であることで知られるが、著者は後期の思想に対しても短いながらも的確な解釈を行っている。 この捧げるということの意味は、思考のうちで存在が言葉になって現れるということにほかならない。存在こそ言葉の住居である。 (202) 人間のとってすべてのものが「言葉」のうちに現れる。言葉は存在の住まいであり、ゆえに私たちは言葉を通ってこそ存在者に到達することができる。森に行くときは「森」という言葉を通って森へと行くし、泉に行くときは「泉」という言葉を通って泉へと行く。仮に「森」「泉」という言葉を思い浮かべなかったとしても、視点は「森」「泉」という文節によって「森」や「泉」の存在を見出す。 人間は存在の住処である言葉を通ってこそ、初めて存在へと行き着くことができるのである。言葉が分節を行うことで、「私」は個々の存在に触れるのである。言葉は人間のコミュニケーションの手段でもなければ
http://anond.hatelabo.jp/20070304023650 匿名ダイアリーのエントリ(通称「増田」)。なかなか良いこと言うなあと思った。エントリの書き手も芥川も。 空も水も木もただそこにあるだけで何ら意味はない。しかし、人間は空や水や木に物語性を見出すことができる。あの空は自分たちのためにある、あの水は自分たちのためにある、と。旧約聖書を読むと、預言者たちの物語性への強い意志を感じる。例えばイザヤ書(id:ryoto:20080101#p1)。自分の身の回りに起こる出来事を神の意志によって起こったものだとして意味づけ物語(story)としてしまう。 しかし、一方で、そのような物語性を解いていくような思想もある。大乗仏教の仏教者たちはそのような物語性をできるだけ解くように思考する。例えば道元の「畢竟如何」。「結局これが何だというのだ」という問いである。そしてこの問いは「結
再び、良質なエントリを共有したい。 id:sakstyle:20071118:1195368440 「現前性」について。勉強になった。 小説を透明な鏡のようなものとして扱うモダンが崩壊した後に、小説には2つの道が残された。 一つは、メディアの物質性を追求する道。 もう一つは、「歪んだ鏡」として新しいメディアを追求する道だ。 以下、小説に限定する。 一つは小説という物質性に拘る道。ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』がこちらに当たる。もう一つは歪んだ鏡として、現前性を表現する道。アメリカのSF作家の作品やライトノベルがこちらに当たる。 ちょっと原エントリの読みが甘いかもしれないが、自分なりに展開してみたい。 現代の小説家が直面する状況は、ある点においてはマニエリスムの作家たちの状況と共通する。ルネサンス的な自然を鏡として写すような絵画がミケランジェロによって頂点へと祭り上げられたとき、マニエ
恋の中国文明史 (ちくま学芸文庫) 作者: 張競出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1997/04メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見る中原文明、楚、秦、漢、隋、唐、宋、元、明、清の各時代における恋愛を描き出した著作である。といっても中国には清代に西洋文化が到来するまでは「恋愛」という概念はなかったらしい。『金瓶梅』『紅楼夢』のような優れた恋愛小説がありながらも恋愛という概念がなかったというのは不思議なことのようにも思えるが、近代に至るまで日本にloveがなかったことと同じく、事実なのだろう。本書は歴史書というよりも一種の文学研究書に近く、文学作品を中心に恋愛について論じられている。儒学には男女は7歳になってからは席を同じにしてはならないという有名な教えがあり、結婚前の恋愛に対しては厳しい教えとなっている。しかし、漢民族が北方の民族やモンゴル
反哲学史 (講談社学術文庫) 作者: 木田元出版社/メーカー: 講談社発売日: 2000/04/10メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 38回この商品を含むブログ (27件) を見るソクラテス、プラトン、アリストテレス、デカルト、カント、ヘーゲル、シェリング、ニーチェ、ハイデガー……。 哲学者である彼らがいかに「反哲学」的であったかを叙述し、哲学者たちの既存の哲学を乗り越えようとするベクトルに焦点を当てた木田元らしい哲学史である。 ソクラテスはそれまでのソフィストの知性主義的な哲学をアイロニーによって乗り越えようとした。プラトンもソクラテスの思想をそのまま継承したのではない。ソクラテスとプラトンの間にある断絶に目を向けようとする著者の姿勢は好ましい。アリストファネス(『雲』)もクセノフォンもソクラテスを描いた。プラトンの描いたソクラテスを絶対視してはならず、ソクラテスのプラトン的解釈
原書読解ですが、えーと前言撤回で、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を読んでいます。面白い。ペンギン版で読んでいるのだけど、172ページの中編である。ペンギン版の『チャタレー夫人の恋人』は314ページであり、『ギャツビー』が長編であるという私が持っていた認識は改めなければならないのかもしれない。 ところで、物語のヒロイン、デイジーの魅力のなさはこの中編の一つの特徴である。デイジーはニックの回想の中では魅力的に見える。が、現実のデイジーはトムの凡庸な妻であり、ギャツビーが心を惹かれる理由も明確ではない。作者が意図的にデイジーを魅力的でない女性に造型したのかどうかは定かではない。ただ、デイジーの凡庸さはこの小説にある響きをもたらしている。それは、虚栄の響きである。グレートな存在であるはずのギャツビーは凡庸なる元カノに心を奪われたままでいることで、そのグレートさが虚構のものでしかないと
ダルデンヌ兄弟の最新作『ロルナの祈り』を見てきた友人が言っていた。「全編、音楽らしい音楽はないのだけど、最後の方にベートーヴェンの音楽が鳴る。それがとても効果的だった」 ウルフの『灯台へ』は名作である。個人的には20世紀の英語小説の中でもベスト5に入れるべき作品だと思っている。このワーズワースクラシックにして150ページ強ほどの、それほど長くない小説は3部に分かれている。1部ではラムゼイ家の平凡な日常を綴っており、事件らしい事件は起きない。ただ、ラムゼイ家が灯台に向かう様と、個々の人物(とりわけミセス・ラムゼイ)の意識の流れが描かれる。太りすぎを気にするメタボなミスター・ラムゼイ、娘が行き遅れないかどうか心配するミセス・ラムゼイ、絵を描くことを好むリリー、その兄弟のジェームズ、女性を蔑視するインテリのチャールズ・タンズリー……。個々の登場人物は英雄でもなければ悪役でもなく、レオポルド・ブル
Dublinersより"After the Race"。 競馬、競輪、自動車レース。アイルランド人は、イギリス人と同じく賭け事好きであり、前者が競馬に情熱を注ぐのだろすれば、後者の好みは競輪になるだろうか。ここで扱われているのは自動車レースで登場するダブリン市民たちは様々な人種の血が混じった人々である。 They were Charles Segouin, the owner of the car; Andre Riviere, a young electrician of Canadian birth; a huge Hungarian named Villona and a neatly groomed young man named Doyle. (35) 登場人物は4人。 He had sent his son to England to be educated in a big
村上春樹の小説を経て、ドストエフスキーに入っていった人が身近にいる。確かに村上春樹は『カラマーゾフの兄弟』に対する言及を何度も行っており、そこからドストエフスキーを読み始めた人がいたとしてもおかしくはない。しかし、春樹とドストエフスキーというには全く似ていない作家のように思える。春樹はキリスト教の信仰の問題や神や悪魔について語ることは少ないし、ドストエフスキーはコミカルで寓意的な設定を用いることはあまりない。 この2人に共通性はあるのか、と電車の中で考えてみたが、どうも物語の中に物語が挿入されているという構造が若干似ているのではないか、と思い当たった。ドストエフスキーの小説で描かれる会話は長い。そして登場人物は会話の中で物語を語り始める。最も有名なのはイワン・カラマーゾフが語る大審問官の挿話。『カラマーゾフの兄弟』の中でもよく語られる部分だが、実はこの挿話がなかったとしても小説全体の物語構
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