十和田湖 早朝の十和田湖 午前6時、朝の爽やかな風に吹かれながら、鏡面のような湖面をじっと眺める。空には刷毛ではいたような軽やかな雲が一筋浮かんでいた。空気はどこまでも清々しい。湖を渡る風と、木々の間を通り抜けた空気が混ざり合ってとても静かでやわらかな揺らぎを作っていた。胸いっぱいに吸い込んで、ふーっとゆっくり吐き出すと、身体の奥に溜まっていた小さな滓が消えていく気がする。転瞬、低く厳かにブナの木がざわめいた。もし時が、今日から昨日へと流れたら、世界は今よりほんの少しだけ、透明になるのだろうか。紺碧の水面は凛と澄んで、昨日の幻を連れてくる。 広い世界に一つずつ そのあまりの美しさゆえに、作家大町桂月をして「山は富士、湖は十和田湖、広い世界に一つずつ」と言わしめた十和田湖は、青森県と秋田県両県にまたがる湖。十和田火山の噴火で形成された二重カルデラ湖である。ブナの森など豊かな自然に囲まれた美し