先日、第168回直木三十五賞に小川哲さんの『地図と拳』が選出されました。本書は満洲を舞台に、日露戦争前夜から第二次世界大戦までの半世紀を、史実とフィクションを織り交ぜて描いた長編小説です。本作の受賞を記念し、『ゲンロン11』に掲載された小川さんのエッセイを無料公開いたします。 本稿執筆時、小川さんは『小説すばる』(集英社)にて「地図と拳」を連載しており、2018年には取材のために満洲を訪れていました。その訪問の翌年、『ゲンロン10』に掲載された東浩紀の満州にまつわる論考「悪の愚かさについて、あるいは収容所と団地の問題」を読んだ小川さんは、東が論じた「悪」の問題を通じて、小説家として自身が書くべき物語のあり方に思い至ります。『地図と拳』とあわせて、どうぞご覧ください。(ゲンロン編集部) 1 2017年の11月、僕は、『ゲームの王国』というカンボジアを舞台にした長編を書き終えて、短編の依頼など