米国の図書館や学校では、特定の本を撤去させようとする「禁書」の動きが広がっている。米図書館協会も警戒感を表明し、様々な資料をアーカイブする閲覧サービスInternet Archiveも検閲に反対する取り組みを進めているほどだ。 こうした動きに対する認識を高め、文字通り焚書(禁じられた本を燃やす)の脅威に抗議するため、カナダの作家マーガレット・アトウッドと出版社ペンギン・ランダムハウスは、彼女の代表的なディストピア小説『The Handmaid's Tale(邦訳は「侍女の物語」)の「燃えない」版を、1回限りのオークションに出品している。 ペンギン社によると、これは「検閲に反対する強力な象徴であり、重要な物語を保護する必要性を思い起こさせるもの」だそうだ。この「燃えない」版は遮熱箔で覆われたページやフェノール樹脂(耐熱性・難燃性に優れる)のハードカバーなど、耐火性の素材で印刷・製本されている
『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんは昨年「独学」「執筆」に加えて「復刊」をライフワークとしていくことをTwitterで宣言した。この連載「読書猿が推す『良書復刊』プロジェクト」では、読書猿さんが推す復刊本や、復刊に関係する話を紹介していく。 2022年5月19日より、国会図書館による「個人向けデジタル化資料送信サービス」がスタートする。ごく簡単に説明すると「国会図書館デジタルコレクション所蔵の絶版本や雑誌が、自宅で読み放題になる無料サービス」だ。読書猿さんは、このニュースは全国の独学者にとっても福音であると話す。今回は、元司書でレファレンス担当だった書物蔵さんを対談相手に迎え、同サービスの使いこなし方、楽しみ方を語ってもらった。(取材・執筆/藤田美菜子) 「自宅の隣に国会図書館」のインパクト ――今回スタートする、国会図書館の「個人向け
ようやく時間ができたので、レベッカ・L・ウォルコウィッツ著『生まれつき翻訳』(監訳・佐藤元状、吉田恭子/訳・田尻芳樹、秦邦生、松籟社, 2021)を読みはじめる。監訳者の方々は「クッツェーファンクラブ」の面々なので、読むのを楽しみにしていたのだ。 まずは序章「世界文学の今をめぐって」をざっくり読んでいくと、クッツェーという作家名がかなり出てくる。そこはゆっくり読む。するとチカチカと点滅する文字群に出くわした。p24の3つ目の段落はこう始まる 「ニューヨークやロンドンなど出版業界の中心から外れた場所にいる英語作家も、翻訳を余儀なくされることがある。ケニアの作家グギ・ワ・ジオンゴが最初の一連の長編をキクユ語で出版することにしたのはよく知られているが、自らの翻訳で英語でも出版してきた。チヌア・アチェベの『崩れゆく絆』にはイボの言葉がそこここに使われているが、一九六二年、ロンドンのハイネマンの叢書
紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。今回ご登場いただくのは、ロシアをはじめ東ヨーロッパのアート系書籍を専門としてきた書店「Art Book Iskusstvo(イスクーストバ)」代表・稲葉直紀さんです。様々な縁が引きちぎられた世界を前に、稲葉さんが手に取った本は――。 ロシアがウクライナに侵攻したその日から、あらゆる繋がりが断ち切られている。ウクライナの人々は命を、生活を、日常を奪われ、多くの人が避難を余儀なくされ、家族との絆、故郷との絆を断ち切られている。またこの侵略を非難しロシアを脱出するロシア人も少なくないという。彼らもまた自国との繋がりを断つべきか苦しい選択を迫られている。 ロシアに対する
上製本の背の作りの分類 上製本、というのはいわゆるハードカバーの本のことですが、現代の製本では、その背の作りは以下の図のように分類できます。 上製本の背の作り まず、上製本には丸背と角背があります。 丸背の上製本は、背と本文とが直接は接着されておらず、ページを開くと、背に隙間が空くんですね。この仕様はホローバックと呼ばれています。本文と表紙は見返しでつながっています。ホローバックはページが開きやすいのが特徴です。 角背の上製本には2種類あり、一方は丸背上製本と同じようなホローバック、もう一方は背と本文が完全に接着されているもの。これはタイトバックと呼ばれています。角背のタイトバックは少々開きが悪いんですが(構造から言って並製本と同程度かな。読み物であれば特に問題ありません)、頑丈であるという長所があります。 上製本には、「丸背」、「角背・ホローバック」、「角背・タイトバック」、この3種類が
2022年3月1日に翻訳版が発売された『スヌープ・ドッグのお料理教室 ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』。発売元の晶文社が2月1日にこの本の表紙をツイートすると、1.4万RT/4.3万いいねと大きく話題となり、Amazonで総合1位を獲得。 この本の編集者である晶文社の葛生知栄さん、翻訳者のKANAさんに出版の経緯や、中身についてお伺いしました。 <関連記事> ・スヌープ・ドッグのベスト20曲:ヒップホップ・アイコンの必聴曲 ・【全パフォーマンス徹底解説】初のヒップホップアクト ・【試し読み】『スヌープ・ドッグのお料理教室』 発売のきっかけ ―― 海外での発売は2018年ですが、この本を日本で出版するきっかけは何だったんでしょうか? 葛生:SNSで発見した社内の同僚から、「こんな本が出てるんだけど」って話が回ってきたんです。私もたまたま同じタイミングで刊行されているのを知
リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか 作者:マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング原書房Amazon はじめに どのように人々は集まってきたのか? 自由な町にヤバいやつらが集まってくる。 リバタリアンらは町を良い方向に変えたのか? おわりに はじめに 他者の身体や私的財産を侵害しない限り、各人が望むすべての行動は自由であると主張する、リバタリアンと呼ばれる人たちがいる。すべてを自由にすべきと考える原理的な人から、条件的に制約を認める人まで無数の思想的内実があるわけだが、そうした思想を持つ人々にとっては多くの国家・地域は制約だらけにみえるだろう。 自分たちの思想を社会に反映させるためには、民主主義の場合にはリバタリアン的思想を持つ候補者に票を投じたり、自分自身が立候補して国の方針を地道に変えていかなければいけないわけだが、それは当然ながらなかなかに大変な
「#転換契約」とは?「転換契約」という用語を耳にして、すぐに「Read & Publishのことね」とわかる方は、図書館業界で電子ジャーナルの問題について詳しい専門家だと思うので(他の業界用語としてもあり)、まずは基本情報から。 転換契約:一般的には、論文の閲覧のために大学等が出版社に対して支払う費用を、論文出版のための費用(論文掲載料)へと段階的に転換させ、それによって論文のOA出版の拡大を目指す契約のことを指す。(プレスリリース文より) つまり、これまでは電子ジャーナルの「購読 Read」のみの契約であったものを、「オープンアクセス(OA)論文投稿 Publish」と組み合わせた契約に「転換」することによって、OA化を推進することに繋がり、このことによって、出版された論文がより「引用」されやすくなって、ひいては引用数拡大に繋がることを目指している。より詳しくは、国立情報学研究所オープン
前回は、近年のブックオフについての言説を紹介した。これまで否定的に語られがちであったブックオフを肯定的に捉えなおし、その意味合いを積極的に語る言説が増えている。それらは、本連載で目指すブックオフの語り方にも近いものである。 今回からはそうした言説を具体的に見つつ、そこで何が語られ、そして何が語られていないかを考えてみたい。 『ブックオフ大学ぶらぶら学部』の反響 今回考えたいのは、前回にも紹介した『ブックオフ大学ぶらぶら学部』である。 ブックオフについての思い出がエッセイやマンガなどで展開されている同書の人気はすさまじかった。同書を出版した島田潤一郎によれば、「1ヶ月で2000部が売り切れた」という[1]。このような受け取られ方は島田も予想外だったというが、それだけブックオフについて考えることが多くの人に受け入れられ、待望されていたということだろう。 同書はそれぞれの論者がブックオフについて
遺言により、旧友の伝記を作成しました。でも、本人が語る場面はありません。 目次と前書き 先日、数年ぶりに会った編集者でノンフィクション作家のナカムラさんに、あれ面白かったよと言ってもらった。昨年のクリスマスのあと、大学以来の旧友が病気でなくなり、遺言?にしたがい、百頁余りの本をつくった。遺族と協力してもらった友人知人たちにも配布したけれど、まだ手元に残ったので、何人か読んでもらえそうなひとにも送った。彼のことを知らないひとにも、読んでほしい。シンプルにそう思った。 「いきなり三里塚の闘争の話から入るから、たしかに読むひとを選ぶ本だとおもうけれど、十数人の語り手たちがカマヤンのことについて話すんだよね。ぼくはそのカマヤンのことはまったく知らないんだけど、アサヤマさんのインタビューを受けて話すひとたちがカマヤンだけでなく、カマヤンとのつきあいからそれぞれ自分の半生を語っていて、ときにはほとんど
今、夏目漱石の「明暗」を読んでいます。どうしてかというと、明暗に出てくる「津田」という人が、肛門の診察を受け、痔瘻と診断され根治術が必要だといしゃから言われるシーンから「明暗」は始まるからです。 夏目漱石も漱石日記の中に、医者の所に行き、「痔の中を開けて疎通を良くしたら五分の深さと思ったものがまだ一寸程ある、・・・・」という記事があるそうです。夏目漱石もの治療に通い、一週間程度入院したこともあったようです。「痔の中を開けて」はおそらく肛門周囲膿瘍に対して切開排膿をしたことを指すのでしょう。また深さが一寸あるというのも、一寸は約3㎝であることから、肛門の出口から2~3㎝ほど奥にある肛門腺が原因ということだったのだと思います。 「明暗」冒頭に、「医者は探りを入れた後で、手術台の上から津田を下した。」とあります。そして疎通を良くするためにがりがり掻き落としてみたとあります。おそらく膿が出てくる瘻
本屋大賞ノンフィクション賞はじめ、ここ数年ノンフィクションを読む人が増えてきた。でもよくわからないのが海外ノンフィクション。いったいどんな作品があって、どんな風に面白いの?というわけで本の雑誌のノンフィクション好き代表の杉江由次が、HONZの東えりかと本誌でノンフィクション新刊レビュー担当の冬木糸一に声をかけた。無謀にもジャンル別50冊を語りつくすという。はてさてどんなラインナップになったやら…。 杉江 二十一世紀版海外ノンフィクション全集を編もうという座談会なんですけど、とりあえずジャンル別であげていきましょう。いちおう〈自然科学〉〈事件〉〈文化人類学〉〈冒険〉〈その他〉の5ジャンルを設定しましたが、もっといい分類があれば変えてもらってかまいません。 冬木 自然科学なら、サイモン・シンは一冊は入れておきたい。やっぱり『フェルマーの最終定理』ですね。
ゴーレム 100 (未来の文学) 作者:アルフレッド ベスター 国書刊行会 Amazon アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』(100は本来べき乗表記)(渡辺佐智江訳、国書刊行会)は妙な本である。 ワイドスクリーン・バロックの大家・ベスターの持ち味である大風呂敷を広げまくる展開や、イラスト・タイポグラフィを用いた視覚的要素もさることながら、イドの怪物・ゴーレム100を召喚する有閑マダム・蜜蜂レディたちの喋り方や、ガフ語と呼ばれる近未来での一種の方言の訳し方などが、あまりにこなれすぎているのだ。 というか、あけすけに言うと、「絶対に(訳者は)ふざけてンだろ!」と思ってしまうほど、自由で闊達な訳文なのである。 だが……巻末の山形浩生氏の解説では、 だが原文とつきあわせるとわかる。あらゆるダジャレ、あらゆるお遊び、あらゆる下ネタは、すべて原文通り。これほどに忠実な翻訳はないとすらいえる代物が
というニュースの解説ですよ。 そもそも何でAmazonが直接取引(「e託」と名付けられています)をしたいのか、に実際の現場とメディアに齟齬が。 メディアはAmazonが取次を飛ばしたい、取次は飛ばされたなくない、と思っている、というポジションをとっています。だからか世間でもそう捉えられがちですが、まずここが違います。 Amazonも取次も出版社も普通に「自分たちのビジネスに有利な選択」をしているだけです。Amazonというかちゃんとビジネスしている企業はみんなロジカルに考えています。「取次を飛ばす」といった捉え方はとてもエモーショナル。自分たちの求める「結果を得る」ために取次を使わないという選択になるだけの話で、そこに感情論は入ってこないんですが、報道のエンタメ化と報道している人たちはビジネスしている人たちではないので、そういう報道になっちゃうのはまあ仕方ないのか。 むしろ従来の新聞やテレ
日本人初のノーベル賞受賞者、湯川秀樹博士(1907~81年)がノーベル賞受賞の2年前の47年に著した教科書「量子力学序説」が7月、大阪大学出版会から復刊された。旧仮名遣いなどを改めて読みやすくしたほか、湯川博士が当時、教科書に書き込んだ加筆部分も収録。現在につながる量子力学の広がりを予見していた記載もある。71年の新装版を最後に絶版となり、現役の研究者でも目にする機会は少なかったといい、復刊の中心となった大阪大の土岐博名誉教授は「私自身、存在を知らなかったが、教科書として今でも通用する内容だ」と話している。 湯川博士は京都帝国大(現在の京都大)専任講師となった翌年の33年、大阪帝国大(現在の大阪大)講師を兼任。34年に専任講師となり、京都帝国大教授に招かれる39年まで大阪帝国大で素粒子の研究に打ち込んだ。この間に発表した論文「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)で、38年に理学博士号を
1冊の同人誌に度肝を抜かれた ――暗黒通信団は1993年に始まって、1996年からコミックマーケットでユニークな同人誌を販売していると聞いています。まずは、お二人が暗黒通信団に入団したきっかけを教えてください。 シ:私自身は、設立後かなり初期からいると思います。コミックマーケットに初参加して本を販売したころには、既にメンバーでした。入団のきっかけは…もはや忘れました(笑)。一生懸命思い出そうとしましたが、そこまで古い記録はないし、流石に90年代のメールのやり取りも残ってないですしね。当時はまだGoogleもないし。 嵐田:私の場合は、7、8年前に参加したサイエンスアゴラがきっかけでした。 シ:これは文部科学省の所管の科学技術振興機構がやっている「科学の祭典」みたいなもので、かつては暗黒通信団も参加していました。サイエンスアゴラは科学好き同士の交流が趣旨ですが、当然我々にとって交流とは「新し
アマゾンでは、本の売れ筋ランキングの総合で一時は9位となり、日本文学部門などで1位を獲得。反響を受けて、同作は3万5000部の緊急重版が決定したという。 出版から30年以上が経過した日本文学の巨匠作品に、なにが起こったのだろうか? TikTokの紹介動画が580万回再生 きっかけは、1人のTikTokユーザーによる動画投稿だ。 TikTokで小説を紹介する動画を投稿している「けんご(@けんご 小説紹介)」さんは2020年から動画投稿を行っており、若い世代に人気のTikTokクリエイターだ。 『残像に口紅を』は、話が進むごとに文字が1つ消えていく実験的な小説。使用できる文字が減っていく世界で生きる、一人の小説家の姿を描いている。 けんごさんは7月27日、本著を簡潔にまとめた30秒の動画を公開した。
昨春までインドに1年弱語学留学をしていました。日本というか関東圏以外で暮らすのははじめてのことで、些細な、しかし自分にとっては大発見だと感じる出来事がたくさんありました。 ふと、世界のあちこちで暮らす何人かの方々の顔が浮かび、あの人にもそういう瞬間がきっとあるのでは、それは一体どんなものだろうと話を聞いてみたくなりました。架空の通信社「エントロピー通信社」の特派員として、ご自身が日常の中で発見し、驚き、かつインターネットで検索しても出てこない、世界のとある路上で拾ったお話をレポートしていただき、それを一冊にまとめようとインドで決めたのでした。 今回執筆いただいた6名の方々は、突然のお願いにもかかわらず快諾してくれました。そうして届いたレポートを集めてできたのがこの冊子です。執筆者の方々について、このページでも改めてご紹介できたらと思っています。
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