彼おとうさんとうまくいっていないんですって、と彼女は言った。また、と私は訊いた。また、と彼女はこたえた。あなたってそういう人とばかり縁があるみたい、と言うと、彼女は少し思案し、上下左右に順繰りに視線を送って、それから言う。 おかあさんとうまくいっていないとか、おとうさんとしっくりきていないとか、そういう問題はよく聞くけれど、それはわりといろんな人にとって核になりうる問題だから、だから聞くんだと思う、私は、ただ親しくなった男の人から、あっという間に、なんていうか、留保のない情報伝達をされる、そういうパターンができあがっている、彼らの話題の共通性よりは、そのことを考えたほうがいいように思う、そう、男の人だけではなくって、仲良くなった女の人だって、早い段階で深刻な事情を話すよ。 彼女がそう言って私の顔をのぞきこむので、私は息が詰まった。私だって、その種のことを彼女に話した。十年ばかり前、私と彼女
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