カッサンドラーはトロイア王、プリアモスの娘である。アポローンはカッサンドラーの美貌に懸想し、求愛する。自分の愛を受け入れれば「百発百中の予言能力」を授けるとカッサンドラーを誘惑する。カッサンドラーはそれを受け入れ「予言能力」を手に入れるが、その瞬間「アポローンに弄ばれたあげく、捨てられる自分の運命」を予言してしまう。 愛を受け容れる条件はその愛が愛ではないことを知ることだった。ついこれは残酷な愛の不可能を語っているのだろうと読んでしまうわけだが、待てよ、誰だって受け容れた後でそれが嘘だと気づく、そうじゃないのか。いつでも予言は疑いだけを真実に変え、知りたくないことだけを知らしめる。 避けることのできない運命とは、極端な言い方をすると過ぎ去ってしまったことである。過ぎ去ったのに気づかなかったことが遅れてやってくる。犯してもいない罪に罰がくだされるときは、知らない場所で知らない罪を犯していたこ